J.クラットン=ブロック『猫の博物館 ネコと人の一万年』
美しい、まさに博物館のような本。
豊富な挿絵史料が特徴的な本。
中でも(↓cast様書評でご指摘の通り)日本画が多いのが目につく。
大英帝国にとって、黄金の国ジパングといえば、今日ならさしずめ月世界くらいに遠く珍しい国で、そんな遠国の絵となれば落書きのような墨絵でも珍品として後生大事にしまい込んだのじゃないかと、つい苦笑いしたくなるくらいだ。
しかしそのお陰で日本本国ではおそらく顧みられることの無かったであろう猫絵までもが、丁寧に保管されているらしいのは大変に有難い。
日本画が多いもう一つの理由が、中世~近世までの日本は、世界一猫を大切にする国であったという事も見逃せないだろう。
これはこの本には書いていない事だけれど、おそらく事実だ。
だから日本では猫は画材にもその他にも猫が頻繁に取り上げられ、多数の猫絵が製作された。
それらの一部が海を渡ってはるばるイギリスくんだりまで運ばれたということだ。
古代においてこそ、猫はエジプトで神として大事にされた。
が、その猫がヨーロッパに渡ると、いつの間にか悪魔や魔女の使いとされ虐待されるようになった。
この時代以降、ネコは徐々に悪、悪魔崇拝、そして魔術の性質を帯びるようになっていく。十六世紀と十七世紀は恐ろしい魔女裁判の時代だった。一六〇七年にトプセルはこう書いている。「魔女の使い魔はネコの形をとることがいちばん多い。つまり、この動物が魂と体に危険をおよぼすということである。
(p.82)
しかしこの本では猫の暗黒時代についての記述は短い。
わずか10ページほどだ。
イギリスは今や、動物愛護精神が最も発達した国の一つとして自他共に認められている。
そのイギリスでつい数百年前まで目を覆うような猫虐待が行われていた史実は、誇り高い大英博物館の職員として、あまり触れたくなかったのかも知れない?
短いページ数の中に、あまりに広範囲にわたって「猫と人」について書かれているので、すこしはしょりすぎの感なきしにあらずだが、猫と人(特にヨーロッパにおいて)の関係について知りたい人にとっては、よくまとめられた一冊だと思う。
(2008.12.2.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫の博物館』
ネコと人の一万年
- 著:J.クラットン=ブロック Juliet Clutton-Brock
- 訳:小川昭子(ひらがな)
- 出版社:東洋書林
- 発行:1998年
- NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)イギリス
- ISBN:4887213131
- 157+vページ
- カラー、モノクロ、口絵、挿絵、イラスト(カット)
- 原書:”The British Musum Book of Cats” c1988
- 登場ニャン物: 多数
- 登場動物: -
目次(抜粋)
自然の中のネコ
野生のネコ科動物の仲間
繁殖
習性
古代のネコ
飼いならされた最初の頃
古代エジプト
古典時代
中世
伝説と魔術の中の猫
近代のネコ
主な品種
ネコの変種作り
都会と田舎のネコの分布
東洋のネコ
野生化ネコ
船のネコ
訳者あとがき
参考文献
索引
【推薦:cast様】
目次を引用すると、「自然の中のネコ」「古代のネコ」「伝説と魔術の中の猫」「近代のネコ」など、ネコの生態から、ネコと人の関わりや歴史などが広範囲に書かれています。
学術書では無いけれど、専門的な事も書いてあったりするので、もう少し猫の事を知りたいな~という人にはオススメかもしれません。
ただ総ページ154ページ足らずですから、全体に浅い感じは否めず、すでに色んな本を読んで勉強している人や、もっと深く知りたい場合は物足りないと思います。
日本の美術作品も含め、絵画や遺跡などの写真やイラストなどが多数載せてあるところに惹かれて購入したのですが、できる事なら全部カラーで載せて欲しかったです。
しかし、外国の本に猫を描いた日本の絵が割と多く載せられているのはなんだか嬉しいものですね。
(2004.02.12)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。