ポール・ギャリコ『トマシーナ』
その猫は安楽死させられたが・・・。
大和書房では『幻のトマシーナ』と和訳されている。
その題名の通り、今は幻の本となりつつあって、日本語の訳本は岩波書店版も大和書房版も「入手不可」、英語の原書ですら新刊は手に入らない。私が持っているのも、以前の所有者名が裏表紙に大書してある古本である。
が、最近ギャリコの『ジェニィ』などまた文庫で出てきているから、あるいは『トマシーナ』も出るかも知れない?
トマシーナは、あの有名な『ジェニィ』を大叔母に持つ、由緒正しい猫である。
また、母を亡くした幼い女の子の大事な大事な友達であり、母代わりであり、すべてでもあった。
その女の子の父親は獣医だった・・・と書くと、理想的な環境のようだが、この獣医はとんでもない男だったのである。
そもそも、トマシーナという名前さえ、最初はオスと勘違いされてトーマス(Thomas)と名付けられたのを、後に雌と判明したので、トマシーナ(Thomasina)と女名に替えただけだというおそまつさ。
ギャリコの登場人物としては異例な位に、この獣医は冷酷で、自分勝手で、他をかえりみない、鼻持ちならない男だった。
この獣医の一番得意とする治療法は「安楽死」だった。
そして、トマシーナもあっけなく安楽死させられてしまう。
この物語の本題は、トマシーナが「殺されて」から始まる。
しかし、とはいってもギャリコの本ですから、例によって、善だけで創られたような、とてつもなく善良な人物、というものも当然出てきます。
そして、最後は強い深い愛に囲まれます。
それにしても、ギャリコは「死と生のはざま」というか、「ぎりぎりの死から蘇る」というものが得意ですね。
ジェニィ』はピーター少年が生死の境をさまよっている間の話だし、『小さな奇跡』も蘇る話です。
中でもこの『トマシーナ』は、キリスト教的死生観が一番強くでているようです。
追記:その後、創元推理文庫から山田欄訳で再発行されました。
(2002.4.10)
*「トマシーナ」は映画にもなっています。
→映画『トマシーナの三つの生命』
.
*私が持っているのは英語版ペーパーバックですが、以下の和訳が出ています。
『トマシーナ』 山田蘭:訳
創元推理文庫
ISBN:4488560016 9784488560010
『幻のトマシーナ』 矢川澄子:訳
大和書房
ISBN:4479520317 9784479520313
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『トマシーナ』
- 著:ポール・ギャリコ Paul Gallico
- 訳:-
- 出版社:Penguin Books
- 発行:1957年
- NDC:933(英文学)小説
- ISBN:0140021515
- 249ページ
- 原書:”Thomasina” c1957
- 登場ニャン物:トマシーナ、タリサ、マックマードック、ウーリー、ドーカス
- 登場動物:犬、ほか