今村与志雄『猫談義 今と昔』

今村与志雄『猫談義 今と昔』

 

各国古典に精通した著者。

この本が大作であることは間違いないだろう。中国古典の猫文献を網羅しているのみならず、日本や西洋の古典もたびたび引き合いに出している。ものすごい読書量だ。しかも漢字を並べた中国文献をこれほど多く読まれているのだと思うと、私などは、それだけで尊敬してしまう。最近は、ネコの本は売れるからと、フリーライターなどが適当に調べてさもそれらしく書いている本が目立つが、この著者はそのような付け焼き刃的ライターとは異種の人種だと思う。

この本は猫文献の研究書である。 ネコの生物学的考察書ではない。東洋、特に中国における猫歴史が深く掘り下げてあって面白い。

私には、中国は猫に冷淡な国というイメージがどうしてもある。ごくごく最近になってようやく、中国でも猫を愛玩動物として可愛がる層がでてきたというが、今尚、あまり優遇されているとはいえない現状だそうだ。中国人の留学生が「犬猫病院」の看板をみて、そこは「犬や猫に噛まれた人が行く病院」だと信じ込んでいたという話を聞いたことがある。中国では「犬猫の為の病院」など考えられないとか。その中国でも、少数とはいえ、猫を愛した人がいたと知るだけでなんか嬉しくなる。

そして、この本を読むと、昔の方がかえってネコが大事にされていたのではないかと思えてくる。古代はネズミ被害が今と比べものにならないほど深刻だった。だからネズミを退治してくれるネコは今より大切にされていたのではないか。

今村与志雄『猫談義 今と昔』

今村与志雄『猫談義 今と昔』

この本を読んでひとつ気になるのは、猫という家畜は山猫や野猫を飼い慣らしたもの、というような表現が随所に見られること。この場合の山猫とは、アジアゴールデンキャットやベンガルヤマネコを代表とする、いわゆるヤマネコ類を指しているらしい。一応猫は「天竺からつれてこられた動物」だとする説も紹介してはいるが、しかし中国文献では、この説は「間違い」で、中国の飼い猫はもともと(中国の)山にいた山猫を飼い慣らしたものとされているらしく、作者もそちらの説をとっている。

一方西洋生物学では、ネコはアフリカに生息するリビアヤマネコもしくはそれに近いネコ科動物を古代エジプト人が飼い慣らし、それが全世界に広がったとされている。

中国という国は、ご存じの通り、中華思想の非常に強い国だ。思想統制も当然行われてきた。2003年の現代でさえ、新型肺炎SARSの患者数隠しなど情報操作が行われている。ましてや昔のこと、ネコのように役立つ動物を、外来種と認めたがらなかったとしても、それは当然のように思える。むしろそのような状況の中でなお「天竺から渡来した」という説が漏れているということの方が真実を語っているのではないかと、私は思わずにいられない。

まあ、猫の由来なんて近い将来、遺伝子研究で解明されるのだろうけれど。解明されない方が面白いかもね、なんて思ったり(笑)。

ということで。この本の評価は、イエネコの歴史、古典文学、中国歴史などに興味のある人ならとても面白いでしょう。盛り込まれた情報量もすごい。最高にすばらしい本です。が、今の時代にあまり一般向けとは思えないので、お勧め度は満点からちょっと落とさせていただきます、ごめんなさい。

(2003.4.28)

今村与志雄『猫談義 今と昔』

今村与志雄『猫談義 今と昔』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『猫談義 今と昔』

  • 著:今村与志雄 (いまむら よしお)
  • 出版社: 東方書店
  • 発行: 1986年
  • NDC : 645.6(畜産業・家畜各論・犬、猫)
  • ISBN : 4497861740
  • 295+10ページ
  • 登場ニャン物 : 多数
  • 登場動物 : ―

 

目次(抜粋)

  • 一 縁起
  • 二 陸游と猫
  • 三 猫の異名
  • 四 魔性としての猫
  • 五 猫に名前をつける話
  • 六 猫は虎の伯父
  • 七 猫か狸か
  • 八 猫の五徳
  • 九 猫と鶏の問答その他
  • 一〇 猫の占い
  • 一一 猫と鶏の問答その他
  • 一二 猫の占い
  •  |
  • (中略)
  •  |
  • 二五 明代宮廷と猫
  • *あとがき
  • *索引

今村与志雄『猫談義 今と昔』

今村与志雄『猫談義 今と昔』

 

著者について

今村与志雄 (いまむら よしお)

1925年東京医生まれる。1948年東京大学文学部卒業。同大学大学院に学ぶ。東京都立大学助教授。1971年12月、東京都立大学をやめ、著述業となり現代に至る。専攻:中国文学、中国近代思想史、朝鮮近代思想史。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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今村与志雄『猫談義 今と昔』

9.6

猫度

10.0/10

情報度

9.8/10

お勧め度

9.0/10

プラスポイント

  • すごい情報量です
  • 古典に精通

マイナスポイント

  • 古文になじみのない人にはちょっとむつかしいかな

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