平岩米吉『猫の歴史と奇話』
「猫の本」の最高峰のひとつ。
平岩米吉氏といえば言わずと知れたイヌ研究の大権威。
その氏の猫本だが、すごいというべきか、流石というべきか。
学者でなければ書けない本。
とにかく、とんでもない数の資料だ。夏目漱石でさえ“古典”と称して敬遠する向きのある今日、古文漢文自在に下して、これだけの文献を網羅出来るだけの実力のある人が、果たして今後出るかどうか。
内容は、題名の通り、猫の歴史および猫にまつわる奇話・伝承・言い伝えなどが、大部分を占める。
日本に初めて猫が渡ってきた頃の話から、猫又伝説、絵画に見られる日本猫の体型の推移、離島の山猫、遠路はるばる帰ってきた猫の話、その他、多岐に渡っている。
よくもまあこれだけの情報を集めたものだと感心してしまう。特に、日本における猫史や猫伝説史を、この本以上に詳細に調べたものは他に無いのではないだろうか。
猫と暮らしている身として一番嬉しかったのは、長寿猫の項だろうか。
最高齢が“よも子”の36歳半。
昭和10年から46年まで生きたそうだが、その時代に残飯=ねこまんまだけでそんなに生きられるのならば、今ならもっと長生きしてくれるかも知れない、と、思わず愛猫の頭を撫でてしまう。
ネズミが猫のオッパイを飲む話も良い。
白黒のぼやけた写真だけれども、子猫達に混ざって、ネズミが猫のお乳にぶら下がっている写真は最高だ。(この写真は有名で、他の本、たとえば「ねこ」木村喜久弥著、にも載っていたが。)
洋猫の流入と、それにともなう古来日本猫の雑種化を危惧し、日本猫の体型や特色などのスタンダードを提唱したのもこの方。
未だに「日本猫」という「品種」は認知されていないが、ぜひ生粋の日本猫は残したいものである。
ジャパニーズ・ボブテールなどは、日本猫の一家系にすぎない。
文献収集だけではない。 実践面でも充実している。
“子猫の成長表”は、これほど多くのネコ飼育本が出版されているにもかかわらず、平岩氏の表に勝るものはまず見られない。
目も開いていない子猫を人工哺乳で育てたとき、この表がとても頼りになった。
その他、骨格や歯式など、軟派な本には載っていない記載も多い。
1990年代出版の本にしては、文体は高尚だが堅く、表現なども少し古く感じられる。著者の年齢によるものか。
猫初心者が真っ先に読むべき本、ではないかもしれないが、猫好きを名乗るのであれば、いずれは読んでおきたい本だろう。まして猫について少しでも研究したい人なら、必読の書だと今でも確信している。
(2002.4.10)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫の歴史と奇話』
- 著:平岩米吉 (ひらいわ よねきち)
- 出版社: 築地書館
- 発行: 1992年
- NDC : 645.6(畜産業・家畜各論・犬、猫)
- ISBN : 4806723398
- 243ページ
- 登場ニャン物 : よも子、他多数
- 登場動物 : ―
目次(抜粋)
- まえがき
- 第一章 猫の歴史
- 一 古代エジプトの猫崇拝
- 二 中世ヨーロッパの猫虐待
- その他
- 第二章 猫股伝説の変遷
- 一 最初の猫股
- 二 猫股の形態
- その他
- 第三章 猫の報恩談
- 一 猫の殉死
- 二 蛇を咬んで主人を救う
- その他
- 第四章 野生猫の存在
- 一 裏日本の存在
- 二 離島の山猫
- その他
- 第五章 猫の奇話(上)―形態について―
- 一 猫の大きさの記録
- 二 猫の長命の記録
- その他
- 第六章 猫の奇話(中)―行動について―
- 六 猫の帰家記録
- 七 飛び下りの記録
- その他
- 第七章 猫の奇話(下)-習性その他―
- 一三 猫の秘薬
- 一四 火事を知らせた猫
- その他
- 第八章 益獣としての猫
- 一 子猫の成長
- 二 猫の生態
- その他
- 余聞
- 図版目次