ブラッドショー『猫的感覚』

ブラッドショー『猫的感覚』

羽田詩津子訳。動物行動学が教えるネコの心理

ネコを愛している人は、それ以上のことを知らなくても、わたしの友人であり仲間だ。
―――マーク・トウェイン
前裏表紙より

英国の動物学者がネコを語る

著者のジョン・ブラッドショーは、ブリストル大学人間動物関係学研究所元所長として、長年飼い猫・飼い犬の行動や心理、動物福祉、人間との関係等を研究。本書『猫的感覚』は《ニューヨークタイムズ》のベストセラーとなり、NPRブック・オフ・ザ・イヤーを受賞。初めてネコと暮らす方はもちろん、すでに長く暮らしている方にも、学ぶことの多い内容となっています。

私がとくに興味を感じたのが、「第4章 すべてのネコは飼いならされることを学ばなくてはならない」。

この章では、子猫が生後何週目から人間と接すれば良く人馴れするか、とか、その際、どのくらいの時間を接するのが良いのか、また、ネコ同士の付き合い方はいつ、どのように学ぶか、などが説明されています。飼い主には深い愛情を示し、客がきても落ち着いていて、猫同士のトラブルもおこさない、そんなネコこそペットとして理想的なわけですが、そのような性格に育つには、持って生まれた性格もあるものの、幼い頃の経験―――人間や兄弟たち、他の猫たちとの触れ合い―――が、いかに重要かがよくわかる章となっています。

ほかの章は、正直言って、わりと一般的なネコ学が述べられていました。イエネコ(飼い猫)となった経緯にはじまり、お決まりの「さびや三毛のネコはいつも雌なのか?」の疑問、縄張りについて、純血種に見られる問題行動、その他。猫と暮らす人なら誰でもこのくらいは知っていて欲しい内容といえるでしょう。どのような内容かは、下の目次からご想像ください。

目次(抜粋)

  • まえがき
  • ネコを理解するために
  • 第1章 ネコの始まり
  • 第2章 ネコが野生から出てくる
  • 第3章 一歩後退、二歩前進
  • 第4章 すべてのネコは飼いならされることを学ばなくてはならない
  • 第5章 ネコから見た世界
  • 第6章 思考と感情
  • 第7章 集団としてのネコ
  • 第8章 ネコと飼い主たち
  • 第9章 個体としてのネコ
  • 第10章 ネコと野生動物
  • 第11章 未来のネコたち
  • 謝辞
  • 訳者あとがき
  • 原注
  • 参考文献
ブラッドショー『猫的感覚』

雑感

日本人が書いた猫本は、ほとんどどれも、ほぼ違和感もなく読む事ができます。が、外国人・・・主に欧米人となりますが・・・が書いた猫本については、私は違和感というか微妙な温度差を感じることが多く。

この本でも微妙な温度差を感じ、何故だろうと思い、そして、あることに気づきました。英語で「甘える」って、なんという?

私は別に英語ネイティブでも専門家でもなく、今住んでいるのも日本の田舎で英語を母国語とする人と接する機会なんてゼロ。ですから英語の知識も限られているのですけれど、私の知る限り、ピッタリ合う単語は無いような・・・?

辞書で調べました。Spoil (be spoiled),fawn on, depend(lean,rely)on, (behave like) a baby, trust, take advantage of, attached to, friendly, affectionate, etc. うーん、やっぱりどれもちょっと違うなあ。

その後、やっと思い出しました。土居健郎『甘えの構造』1971年発行のベストセラー。私が読んだのもずぅっと昔。昔過ぎてほとんど何も覚えていないのですが、たしか、「甘え」というのはかなり日本人独特な精神構造と書いてあったような?

本はもちろん今も所有しています、が、読み返すのも時間がかかりますので、サクっと検索でごまかし(汗)。ウィキペディアによれば、この本は『「甘え」に該当する言葉が他言語に見つからないこと』に直目して書かれ、『日本人特有の感情』だとしている、等。

これかもしれない、と思いあたりました。

私はイエネコは甘えん坊な動物だと思っています。どれほど野性的な子であろうと、イエネコ種であれば甘えの気持ちはどこかに持っている、と。だからこそ、あの小笠原の野性的な野良猫たちさえも、捕獲された後、ちゃんと人馴れしたのでしょう(高橋うらら『野鳥もネコもすくいたい!』)。

しかし、欧米人が書いたものを読みますと、どれも決まって、ネコを「独立心の強い単独行動の生き物」と断じて見ている気がします。

たとえば、飼い猫が足元にすりすりしてきたとします。日本人なら「甘えん坊なんだから♡」と微笑ましく思うだけでしょう。しかし欧米人は(少なくとも欧米の動物学者といわれる人達は)、それは必ずなんらかの目的なり意図をもった行動であると解さずにはいられないような思考経路の持ち主であるように見えます。すりすり=ニオイ付け、というのは正しいとは思いますが、それだけではなく、しばしばニオイ付け以上に甘えたいって気持ちのこともあるのでは?むしろ日本人の私としては、それを「甘え」と理解しないなんて寂しすぎるんですけれど。

そういえば、西洋人の肩は凝らないとききます。しかしそんな西洋人が、日本に来て「肩が凝る」という言葉や現象を学ぶと、肩が凝るようになるんだそうです。面白い。

ついでに調べたら、「ツンデレ」はそのまま「tsundere」で使われているそうです。これも外国には無い、複雑で微妙な心理だからだそうです。

ということは、もし将来、「甘え」 が標準的な国際語になったら、欧米人の猫に対する視線も変わってくるかもしれません・・・?

↑うちの猫。「シャーシャー魔王」とあだ名されるほど野性的だった元野良猫も、愛情を掛ければこの通り甘えん坊に。

もうひとつ。この文章にも私はちょっとアレ?って思っちゃいました。

ネコはもともと単独行動をしていたせいで自立しており、おかげで理想的な手のかからないペットになっている。しかしイヌと同じように順応しやすいにちがいないという飼い主の思い込みには、なかなか上手に対応できない。
page17

犬と猫の両方と暮らした私の感想は逆なんです。イヌとは躾けないととてもじゃないが一緒に暮らせない動物。が、猫に躾は無用。どの猫も、ちゃんと自分の頭で判断して順応し、理想的な同居相手となることができると思っています。イヌよりウサギよりハムスターより、ネコの順応力は高いというのが私の感想なんです。―――もっともこの「順応」が「訓練しやすい」を意味するのであれば話は別ですが。猫は犬と違って、人間の命令は聞きませんからね。

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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著者について

ジョン・ブラッドショー John Bradshaw

英国の動物学者。ブリストル大学人間動物関係学研究所元所長。他に『犬はあなたをこう見ている』他。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『猫的感覚』

動物行動学が教えるネコの心理

  • 著:ジョン・ブラッドショー John Bradshaw
  • 訳:羽田詩津子(はた しずこ)
  • 出版社:早川書房 ハヤカワ・ノンフィクション文庫
  • 発行:2017年
  • NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)猫
  • ISBN:9784150504991
  • 394ページ
  • モノクロイラスト(カット)
  • 原書:”Cat Sense:The Feline Enigma Revealed” c2017
  • 登場ニャン物:多数
  • 登場動物:-
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