神林長平『敵は海賊・短篇版』

神林長平『敵は海賊・短篇版』

 

『敵は海賊』シリーズ。

シリーズ初の、短編集。

敵は海賊

チーフ・バスターが、ラテルに、「デートしてこい」と命令した。
デートだから戦闘船ではなく、民間機で(!)火星ラカート港まで行って、ある女性の依頼を引き受けろというのだ。
その依頼とは、「行方不明になった伯父さんをさがして」

バカでかいレイガンを腰にぶら下げたまま、民間機+徒歩で行くというだけでも恥ずかしいのに、なんとおまけまでついてきて。
いわずとしれた、アプロ。黒猫型異星人の相棒。

これの、どこが、デートを楽しむだあ?
しかもやっぱり、その娘の周辺には海賊疑惑がプンプン漂っていて。
これは単なる「行方不明者探し」じゃない、やっぱり海賊がからんだ事件!!

わが名はジュティ、文句あるか

女海賊、マーゴ。
あるコンテナ船を襲った。別の海賊が所有している船団だが、かまうものか。
ところが、その船の積荷は期待外れだった。
価値のない日用品しか積んでいない。石鹸の巨大な塊とか。

・・・石鹸?

匋冥の神

幻の海賊といわれる匋冥、その神とは?
また、匋冥の猫、真白なクラーラとは?

クラーラ誕生の秘密に迫る重要な短篇。

被書空間

なんと、チーフ・バスターがマーコム賞を受賞した。
チーフ・バスターとは、いわずもがな、あの広域宇宙警察・火星ダイモス基地・対宇宙海賊課のチーフにして、アプロ・ラテル・ラジェンドラチームの上司である。

マーコム賞というのは、火星記者クラブが、「年間で最も対マスコミ関係で苦労した者という基準で選ぶもの」だったが、いままで、およそ賞などというものとは縁のなかったチーフ・バスター、得意満面、意気揚々。
さっそく海賊課をあげての祝賀パーティーだ!

ところが、こともあろうに、アプロのやつ。
猫の鋭い勘、もしくは、単なる食欲の結果? チーフ・バスターの大切なトロフィーを盗んでしまう。
さあ、たいへん!

神林長平『敵は海賊・海賊の敵』

神林長平『敵は海賊・海賊の敵』

*****

アプロシリーズの長編の方は、コミカルなドタバタの中に、深い人生論や考察がちょこちょこと紛れ込んでいて、それがけっこう刺激的なスパイスになっていて、でも全体的には軽い、読後感はやっぱりライトノベルという、その絶妙なバランスがおもしろいシリーズです。
いわば、スパイシーランチみたいな?
ディナーではないけれど、そば定食よりお腹にずっしりと残る、いえ、お腹より舌先に、でしょうか、ピリリ感が舌先に残る、そんなシリーズです。

でも、この短編集は、長編とはまた違った味わいでした。
もっとずっと気楽。

・・・と思ったら、著者ご自身も「あとがき」で、

(前略)長篇版の各作品は、ようするに、とても力がはいっている。
それに対して、本書に収録した短篇版のほうは、軽やかだ。(中略)ストレートに、一気呵成に書かれている。

と述べておられました。
まさに、良い意味で、肩の力が抜けているって感じなんですよね。

だから、さらっと読めちゃいます。
三番目の『匋冥の神』などは、深く突っ込もうと思えばいくらでも突っ込めそうな内容ではありますが、この著者にしては珍しいほど、さらりと書かれていて、熟女世代の私なんかは、もっとじっくり書いて欲しかったくらいですが、でも、・・・
ブログよりツイッター、ツイッターよりインスタグラム、簡単・手早い・瞬間的、考察より感覚的なものが好まれる傾向が強いのが、現代の若者であるというなら、・・・
こういう短編集の方が好まれるかもしれませんねえ?

でも、私の欲目でしょうか、奥に何か残っている感じがします。
著者は全部は出し切ってないな、あるいは、出し切れなかったんじゃないかという、かすかな滓のようなものが感じられます。
次の長編で、それを全部出しきってくださるのではないかと。

ということで、シリーズの続編を、すっごく楽しみにしています。
アプロシリーズ、最後の長編からちょっと間が開いていますが、まだ「終わり」なんて言わないでくださいね。
ぜひ書き続けてください。

(2010.1.2.)

神林長平『敵は海賊・短篇版』

神林長平『敵は海賊・短篇版』

****「敵は海賊」シリーズ ****

アプロ=黒猫型異星人で広域宇宙警察・太陽圏・火星ダイモス基地所属・対宇宙海賊課・1級刑事。食いしん坊で、脳天気で、身勝手で、非常識で、性格も見た目もまさに猫。が、実は案外優秀な刑事でもある。

ラウル・ラテル・サトル=同じく1級刑事でアプロの相棒。

ラジェンドラ=対コンピュータ戦闘用高機動宇宙フリゲート鑑。AAA級人工知能を有す。アプロとラテルの愛艦。

ヨウメイ(匋冥)・シャローム・ツザッキィ(ヨーム・ツザキ)=太陽圏の裏側を支配している幻の大海賊。表の顔は裕福な経済人。この「ヨウメイ」って、『荘子外編』に出てくる言葉「至道之精 窈窈冥冥(至道の精髄は窈窈冥冥ようようめいめい、つまり、奥深くて極めがたい)」からきているのかな?

カーリー・ドゥルガー=超A級宇宙空母でヨウメイの愛艦。その戦闘能力は太陽圏随一で、ラジェンドラもまともに戦ったらかなわない。

クラーラ=白い猫型の有機ロボット(本物の猫?)。ヨウメイの「純粋な良心」の具現化という説も。めったに出てこない。

「敵は海賊シリーズ」普遍のテーマ=「自由」および「支配」。

まとめ:「敵は海賊」シリーズ

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『敵は海賊・短篇版』
敵は海賊シリーズ

  • 著:神林長平(かんばやし ちょうへい)
  • 出版社:早川書房ハヤカワ文庫
  • 発行:2009年
  • NDC:913.6(日本文学)SF小説
  • ISBN:9784150309633
  • 270ページ
  • 登場ニャン物:アプロ(黒猫型異星人)、クラーラ
  • 登場動物:-

 

目次(抜粋)

敵は海賊
わが名はジュティ、文句あるか
匋冥の神
被書空間
 等身大の「敵海」世界

著者について

神林長平(かんばやし ちょうへい)

新潟県生まれ。1979年、第5回ハヤカワ・SFコンテスト佳作入選作「狐と踊れ」で作家デビュー。第1長編『あなたの魂に安らぎあれ』以来、独自の世界観をもとに「言葉」「機械」などのテーマを重層的に絡みあわせた作品を多数発表、SFファンの圧倒的な支持を受けている。『敵は海賊・海賊版』、『グッドラック 戦闘妖精・雪風』などの長短編で、星雲賞を数多く受賞(以上、早川書房刊)。1995年、『言壷』で第16回日本SF大賞を受賞した。

まとめ:「敵は海賊」シリーズ

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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神林長平『敵は海賊・短篇版』

神林長平『敵は海賊・短篇版』
8

猫度

7.0 /10

面白さ

8.5 /10

猫好きさんへお勧め度

8.5 /10

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