神林長平『敵は海賊・猫たちの饗宴』

『敵は海賊』シリーズ2作目。
大海賊ヨウメイの力は絶大だ。太陽圏を裏から支配している。表の世界でもまっとうな会社をいくつも持っているから、ヨウメイの力はますます安泰だ。ヨウメイに出来ないことはない。
となれば、当然、ヨウメイの地位をねらう海賊が出てきてもおかしくない。
しかし、まともに戦ってはヨウメイにかなうわけがない。ヨウメイの力を奪うにはどうすればよいか。
その一方で。
海賊課のラテルとアプロは我が耳を疑っていた。
なぜなら、チーフ・バスターから言い渡された言葉、それはなんと
「くび!」
ラテルは信じられない。信じたくない。
アプロの方はしかし、海賊課をくびになるなら、海賊になろうかなとノンキである。
「海賊になるほうがうまいもの食えそうだし」。
半信半疑のまま、ラテルはラジェンドラに逃げ込みアプロとともに火星のある場所へいく。ある映画会社がアプロを主人公に映画を作る予定だ(と、アプロが主張している)場所だ。
そこでラテルとアプロが見つけたトンデモナイ物とは?
この巻は猫好きにとっては一番面白い巻であることは間違いない。
というのも。
ラテルとアプロが見つけたトンデモナイ物とは
「CATシステム」。
それはなんと♪
人間もコンピュータも何もかも“猫”に変身させてしまうという、実におそるべき武器だったのだ!
CATシステムが打ち込まれた周囲の人間は、完全な猫となる。
さらにその周辺地域は、猫人間ともいうべきものに変化してしまう。
かくて、町中の人間が猫または猫人間になってしまった。
外見も思考回路も猫っぽくなっていく。
コンピュータも猫になったから、それはもう大変な騒ぎで・・・
アプロは、これは最初から猫だから、何の影響も受けなったようだけれど。
CATシステムの最終目的は、ヨウメイをも猫にしてしまうこと。
人間のヨウメイにはとても太刀打ちできないから、猫にすることで乗っ取ろうという計画らしい。
さて、どうなる?

神林長平『敵は海賊・猫たちの饗宴』
・・・猫好きの皆さんに、最後のページだけご紹介します。
・・・テンデイズビルの市民たちは、人間にはもどらなかった。海賊課が治療を勧告したのだが、彼らはそれを拒否した。どこも別段わるくないのに治療を受ける必要はないというのがその理由だった。
その結果、テンデイズビルは猫人の町として有名になり、観光客でにぎわい、豊かになった。
(中略)
それで、テンデイズビルは平和だった。
降砂の季節には市長みずから砂かきし、よい日和には日なたぼっこをし、年に二度の祭りは盛大で、それ以外の日にも町のどこかで必ず宴会がひらかれている。おそらく、きょうもそうに違いない。
page283-284
このような結末♪すばらしい~
著者の神林長平氏は絶対に、相当な猫好き(ほぼ猫キチ?)にちがいない!
(ひとつ文句を言わせていただければ、町が猫になった場面が短すぎ!もっと長々しく、あの3~4倍は書いて欲しかったゾ。せっかくの楽しい場面なのに。)
(2007.8.1.)
****「敵は海賊」シリーズ ****
アプロ=黒猫型異星人で広域宇宙警察・太陽圏・火星ダイモス基地所属・対宇宙海賊課・1級刑事。食いしん坊で、脳天気で、身勝手で、非常識で、性格も見た目もまさに猫。が、実は案外優秀な刑事でもある。
ラウル・ラテル・サトル=同じく1級刑事でアプロの相棒。
ラジェンドラ=対コンピュータ戦闘用高機動宇宙フリゲート鑑。AAA級人工知能を有す。アプロとラテルの愛艦。
ヨウメイ(匋冥)・シャローム・ツザッキィ(ヨーム・ツザキ)=太陽圏の裏側を支配している幻の大海賊。表の顔は裕福な経済人。この「ヨウメイ」って、『荘子外編』に出てくる言葉「至道之精 窈窈冥冥(至道の精髄は窈窈冥冥ようようめいめい、つまり、奥深くて極めがたい)」からきているのかな?
カーリー・ドゥルガー=超A級宇宙空母でヨウメイの愛艦。その戦闘能力は太陽圏随一で、ラジェンドラもまともに戦ったらかなわない。
クラーラ=白い猫型の有機ロボット(本物の猫?)。ヨウメイの「純粋な良心」の具現化という説も。めったに出てこない。
「敵は海賊シリーズ」普遍のテーマ=「自由」および「支配」。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『敵は海賊・猫たちの饗宴』
敵は海賊シリーズ
- 著:神林長平(かんばやし ちょうへい)
- 出版社:早川書房ハヤカワ文庫
- 発行:1988年
- NDC:913.6(日本文学)SF小説
- ISBN:415030257X 9784150303945
- 296ページ
- 登場ニャン物:アプロ(黒猫型異星人)、その他多数
- 登場動物:-
目次(抜粋)
猫じゃらし作戦
猫かぶり前哨戦
猫いらず大騒動
解説/特別対談