来生えつこ『いつでも猫がそばにいる』

数多くの猫を飼い、産ませ、そして、見送った作家。
作詞家・兼・作家の来生えつこ氏の猫エッセイ。
来生氏の、猫に接する態度にはかなり好感を持った。
非常に自然で、且つ、猫と人とは違うということをちゃんと理解していらっしゃる。
が、猫の飼育法については、「この人、いったい何十年前の人なのよ?」と反感すら覚えた。(エッセイの発行年は1998年。)
この方にとっては、猫=外出自由、というのが、動かしがたい前提に立っているように思える。
現在推奨されている完全室内飼いのことは一言も触れていない。
考えたこともないらしい。
完全室内飼いなんて、ごく高価な置物的存在である血統書猫だけ、普通は猫は外に出すもの、というお考えのようだ。
また不妊手術についての考え方も私とは違う。
来生氏も最終的には(比較的最近飼った)3ニャンに不妊手術を施すが、その理由はあくまで、子猫の里親探しが大変だからとか、喧嘩で傷を負ってくるのが困るから、という理由のようだ。
例えば雄猫の場合、
ハレは雄だから、そう避妊と言うことを真剣には考えていなかった。しかし、ハレは、どう見ても、弱虫だった
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から、去勢手術した。雌猫のアメは
四回、お産したといっても、たった二年の開いたである。(中略)二年の間に結構ゲソゲソになっていた。
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ので
四回目のお産のあと、さすがに私も、仔猫の貰い手探しに疲れ、アメももう限界だろうと、避妊手術をすることにした。
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そしてクマは
処女のまま避妊手術をするのも可哀想な気もしていた。
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から、自由交尾を黙認したあと、避妊手術し、
子宮内に胎児がやはり宿っていたと獣医さんから聞かされた。多少心は痛んだ。
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痛んで当然だ。交尾したらどうなるか分かっているはずだろう。
わざわざ妊娠させてから手術で仔猫を殺して、心が痛まないなら猫好きではない。

来生えつこ『いつでも猫がそばにいる』
その他、例えば引っ越しするときに、猫達を置いて人間がまず引っ越しを済ませ、その翌日以降に空き家になった元住所に猫達を迎えにいったり、(その間もずっと猫達は外出自由)、どうも私とはソリの合わない飼い方をされているのである。
私なら心配だから、必ず人と動物たちは一緒に引っ越しさせるのだが。
多分、現在の捨て猫・野良猫事情など考えたこともない人が読めば、この本はなかなか面白い猫エッセイだろうとは思う。
猫達は自由で気ままだし、来生氏の文章は自然体で読みやすい。
が、最近の私は素直ではないので、どうしても、猫本を書くほどの猫好きであればもっと猫社会を知って欲しいと思わずにいられない。
何も保護活動しろとまでは言わない。
が、もう少し、なんというか、猫達全体を思う気持ちというか、もっと広い視野から眺めたものが本のどこかにあって欲しいのだ。
常日頃からそういうことまで考えていれば、自然と文章にもそういうものが滲み出てくるはずだと思うのだが。
・・・最後にハレは猫エイズに感染して発病し、来生氏は一ヶ月半看病した後に安楽死させる。
その時も、来生氏は外に出る猫が感染するのは仕方がないことだとし、感染を知った後でも自由に外出させている。
その辺にもどうも私の考え方とのズレが感じられてならない。
愛猫が他の罪もない猫にエイズを感染させる可能性のことなどは考えないのだろうか。
まあしかし、多分、来生氏の方が、私よりずっと一般的な飼い主感情に近いのかも知れない。
私としては残念だとは思うけれど。
(2003.8.14)

来生えつこ『いつでも猫がそばにいる』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『いつでも猫がそばにいる』
- 著:来生えつこ(きずき えつこ)
- 出版社:小池書院
- 発行:1998年
- NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
- ISBN:4883154602
- 258ページ
- 登場ニャン物:アリス、ムシプ、アメ、クマ、ハレ、阪妻、ナサケ
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- はじめに
- 印象に残っている猫たち
- アリス
- ムシプ
- その他
- 今いる猫たち アメ、クマ、そして亡きハレのこと
- アメだけ時代1 アメを貰う
- アメだけ時代2 アメの出産
- その他
- 獣医さんとのかかわり
- なれそめ
- 獣医さん、あれこれ1
- その他
- ハレのエイズ
- ハレという猫
- 発病
- その他
- 猫のいる風景
- あまりの猫かわいがりも・・・
- なぜ猫が好きなんだろう
- あとがき
- 随想・・群ようこ