『犬と猫の寄生虫図鑑ー診断と治療ー』

アメリカから来た、徹底的に実践重視なオールカラー寄生虫図鑑。
監訳者の序文に書かれている文章が、この本の内容を最も的確かつ簡潔に説明していると思うので、引用。
寄生虫の分類や生物学的記述は極力抑えて、適切な検査法のもと、検出される虫卵あるいは虫体の形態的な特徴や鑑別法を必要最小限記載することにとどめている。そして、最も多くのページを割いているのは、その治療法および駆虫薬に関する部分で、多くの選択肢が提示されている。
獣医学とは無関係な私が見ていても、獣医現場ですぐに役立つ、ということを、本当に最優先に編集されている本なんだなあと思う。
たとえば「Spirometra Mansonoides(マンソン裂頭条虫)」のページ。
マンソン君は、この本では分布はアメリカとなっているが、我が日本にもふつうに生息し、その分布は世界的といわれているものの、すべて同一種であるかどうかはまだ学術的には分かっていない。成虫は1-2mもの長さになる。この長さは、日本海裂頭条虫の最大10m以上等にくらべれば短いけれど、あの猫の小さな体に最大2mもの条虫が寄生すると考えれば、途方もなく長い。
だから、たいていの本には、マンソン君の長い全身画像を載せている。
けれど、本著では虫卵の画像だけである。成虫の説明は皆無。
というのも、マンソン君が寄生されているかどうかは、検便で診断するからだ。
猫の糞の中に、マンソン君の卵が含まれているかどうか。獣医師にとって大切なのは、マンソン虫卵を見分けることができるかどうかということ、そしてもし検出されれば、どうすれば猫体内から駆虫できるかということ。マンソン成虫の姿なんて知らなくても差し支えない。それよりは、より精密な虫卵画像を!そして、使える薬を!
換言すれば、マンソン裂頭条虫が細長いサナダムシだってことくらい、今さら言うまでもないでしょ、ってことでもあるかもしれない。
同様に、たとえばマンソン君の次、「Taenia Taeniaeformis(猫条虫)」のページも。
これも長細い寄生虫だけど、本著ではやはり、虫卵と片節の画像しかない。成虫の説明は、ここにも無い。
猫条虫の場合は、虫卵のほか、片節も肛門から排出される。
猫条虫という虫は、節が連なって細長い体を構成しているが、その節が古くなると(老熟片節)、取れて落ちてしまう。
それを見つけた飼い主は、「猫のお尻から白いモノが出て来ました」と動物病院へ駆け込むことになる。
本書では、何の説明もなく、虫卵と片節の画像が、ポン、ポンっと掲載されているが、これもおそらく、猫条虫の寄生をどうやって調べるかなんて知ってるよね、こういうのが見つかるかどうかだよ、ってことなのだろう。
と、このように、親切な本とはいいがたいけれど、実に合理的な、現場ですぐ役立ちそうな本ではある。
監訳者序文に書かれているように、
・日常の診療あるいは飼育現場に常備
・獣医学科学生あるいは動物看護士のサブノートとして、講義・実習の理解をすすめる一助
として使用されるべき一冊だろう。
もちろん、私のようなふつうの猫愛好家であっても、寄生虫に関心がある方なら、ぜひどうぞ。
画像が大きくて綺麗です。
なお、虫名はすべて学名(アルファベット)、日本でも見られる種については和名も並記。

『犬と猫の寄生虫図鑑ー診断と治療ー』page90-91
マンソン裂頭条虫と猫条虫のページ

マンソン裂頭条虫の虫卵。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『犬と猫の寄生虫図鑑ー診断と治療ー』
カラーアトラス Teton 最新獣医臨床シリーズ
- Dwight D. Bowman, Elizabeth A. Fogarty, Stephen Charles Barr
- 監訳:佐伯英治(さえき ひではる)
- 出版社:インターズー
- 発行:2005年
- NDC:491.9(医学)寄生虫学
- ISBN:4899953666 9784899953661
- 94ページ
- フルカラー
- 原書:”Parasitology Diagonis and Treatment of Common Parasitisms in Dogs and Cats” c2005
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:鉤虫類、条虫類、回虫類、線虫類、ダニ類、ノミ類、シラミ類、その他寄生虫たち

マンソン君の成虫。撮影:はるちん様