松原惇子『猫の恩返し』

エッセイ集です。2部構成。
「猫の恩返し」。
非常に特殊な才能を持った猫、ママちゃん。実話のようですが、実に不思議なお話です。
その猫はある晩「おこんばんは」とやってきました。前足で上手にお店の引き戸をあけて。
そのお店とは、東中野にあるスタンド割烹「美輪」。手頃な値段でおいしい料理を食べさせる店で、いつも常連客でにぎわっています。大きな目の、がんこそうなご主人と、愛想の良い奥さん。メニューはありません。その時々の旬の材料をその時々の気分とお客に合わせて料理して出すのです。それでも常連客は皆、憶する様子もなく、よく食べています。けっしてぼったくられないと信用されているからです。
カウンターには猫の置物がいくつか。猫好きの著者はつい、猫を飼っているのかと質問。そして、思いがけない話を聞くことになります。
その猫、ママちゃんは、猫とは思えない能力を持った猫だったのでした。
「少しはネコを見習ったら」
かつては犬派だったのに、猫と暮らし始めたとたん、猫に魅了されてしまった著者。今や心底、猫にほれ込んでいます。猫はかわいいだけの動物ではないことにも気づいています。猫礼賛の言葉が、あちこちに並びます。
ネコに限って、(中略)、みんなかわいい。ネコは見てくれがどうであれ、性格がどうであれ、すべて許されるのである。
それに比べ、人間はこういうわけにはいかない。ネコに当たりはずれはないが、人に当たりはずれはあると言っていいだろう。
(中略)
正直な話、いま飼っているネコ以上に、すばらしい男性に私はあったことがない。
(中略)
人生、ずいぶんと長いことあるいてきたが、いまだにネコを超す人に出会っていないというのが実感だ。
「ネコに当たりはずれはない」page88-91
犬は残念ながらネコのように、完全に自由ではない。その証拠に、犬は人間の顔色を見て、しょげたり、媚びたりするが、ネコは決して人間様の期限をとったりはしない。
そんなネコのことを、犬派の人たちは、ネコはわがままだからと決めつけたがるが、実はそうではないのである。ネコはわがままなのではなく、自由なのである。これは間違えてはいけない重要なポイントである。
「自由であれ!」page116-117
著者によれば、猫は魔物であり天使であるのです。もし無人島にひとつだけ持って行って良いと言われたら、迷わずに「ネコ」と答えるような存在なのです。ネコを見習って、ネコのように暮らしていれば、ネコのように満ち足りて、毎日幸せな気分ですごせると書きます。人間はなぜかすぐ不幸になってしまう動物です。不幸になることこそ生きがいのような人間だっています。よくいますよね、不幸自慢ばかりしている人。ネコはそんな愚かな生き方はしません。あんなまずそうなカリカリをおいしそうに食べ、ただの水をおいしそうに飲み、体を清潔に保って、ゴロゴロいいながら丸くなって寝る。なんて高尚な生き方なのでしょうか。
そんなネコを見ながら、「ネコを見習え」と、著者は繰り返し書いています。本当にそうですね。ネコこそ人生の師匠だと、私も同感です。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫の恩返し』
- 著:松原惇子(まつばら じゅんこ)
- 出版社:廣済堂出版
- 発行:1999年
- NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
- ISBN:4331506991 9784331506998
- 206ページ
- モノクロイラスト(カット)
- 登場ニャン物:ママちゃん、、メッちゃん、ほか
- 登場動物:-
目次(抜粋)
猫の恩返し
おこんばんは
神がかった猫
ほか
少しはネコを見習ったら
ネコのように生きたい
嫌いは嫌い、好きは好き
ほか
長いあとがきにかえて――猫は天使
【推薦:あんこ様】
小料理屋にある日突然「おこんばんは」と前足で引き戸を開けて入ってきたママちゃん。
弱った体をご主人の元で助けてもらった恩返しなのでしょうか。
なんとママちゃん、競馬の予想を的中させてしまいます。
でも、お金だけじゃなくってママちゃんはご主人にとってもっと大事なものをたくさん残してくれました。
実際に著者の松原さんが聞いた実話です。
昨日読んだばかりですが、何だか胸があったかくなりました。
(2002.5.25)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。