ミシュレ『猫:猫と歴史家と二度目の妻』
150年以上前、フランスでは猫はどんなふうに飼われていたか。
歴史家ジュール・ミシュレの2度目の妻が残した「膨大な原稿や覚え書きの類を、ガブリエル・モノが整理・編纂して刊行した」本を原本とし、「その第一部のうち、そのほぼ半分を抄訳するにとどめ、さらになお、多少分量を勘案して編集した」ものが、本書である。
一部、といっても193ページある。
いずれも、アテナイスが飼った猫達の思い出話。
読んでいてぞっとする部分も多い。
というのも、アテナイスが生きていた時代(1826年~1899年)のフランスにおいては、猫は今とは全然違った扱いを受けていたらしいからだ。
アテナイスの飼い猫の死因はいずれも人為的なもの。
庭師に銃でねらい打ちされたり、ワナにかかったり、毒餌を食べたり。要するに殺されている。
それに対し、アテナイスが抗議した様子は、少なくとも本著からはまったく見られない。
ただ悲しいと嘆いている。
まるで殺されて当然とでもいうように。
多分そうだったのだろう。
当時、外をうろついている猫は、たとえ飼い猫だろうと、殺されても誰も文句は言えないような環境だったのだろう。
害獣のひとつくらいに思われていたのかも知れない。
かといって、当時に完全室内飼いという発想は全くなかった。
もちろん不妊手術などもない時代だから子猫もどんどん生まれる。
そして次々と死んでいく。
さらに、ミシュレ夫婦は何回も引っ越すのだが、そのたびに猫達は置いていかれる。
別れが悲しいなどと書いているけれど、容赦なくおいていかれる。
今の時代の感覚で読めばほとんど猫虐待のような箇所が何カ所もある。
が、猫達の描写は生き生きとして、どの猫も目に見えるように描かれている。
観察眼は確かだ。
猫達に対する愛情も確かだ。
その目の確かさと、あまりに無惨な死に方とのギャップに、なかなか馴染めないが、これこそ150年前の一主婦が書いた猫の本なのだと妙に納得させられる部分もある。
今の時代がこんなで無くて良かったとも思う。
猫のことをこれほど愛し、これほどしっかり観察していた人の大事な飼い猫でさえ、一歩外に出れば庭師に銃で狙われるという時代。
ろくな食べ物も与えられずミルクとパンだけで飼われた時代。
猫達にとって、フランスはつい最近まで住みにくい国だったらしい。
愛猫家にはちょっと読みづらい本だろう。
しかし猫のことを何とも思っていない人なら、感心して読むだろう。
私としては、アテナイスの観察眼は認めるが、猫達の死因に腹が立つので、お勧め度を高くする気にはなれない。
(2004.10.25)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫:猫と歴史家と二度目の妻』
- 著:アテナイス・ミシュレ Athenais Michelet
- 訳:中丸由紀子/伊藤桂子
- 出版社:論創社
- 発行:2004年
- NDC:944(フランス文学)随筆
- ISBN:4846004120
- 230ページ
- モノクロ口絵
- 原書:”Les Chats” c1902
- 登場ニャン物:ムトン、ミネット、プリュトン、コクリュシュ、ティグリヌ、トト、ラ・ドレ、グリゾン、ジェジュル(トロ)、ほか。
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- はじめに
- I ムトンとミネットの物語
- II 花の「エジプト猫」コクリュシュ
- III ティグリヌのこと
- IV 戸との思い出
- 猫と歴史家と二度目の妻・年譜/関係地図・・・伊藤桂子
- ミシュレ「体液」の歴史家・・・竹田篤司
- 解説的あとがき・・・中丸由紀子