マルグレイ『ねこ捜査官ゴルゴンゾーラとハギス缶の謎』
政府公認、麻薬探知猫が活躍!。
D.J.スミス、女性、英国歳入税官庁の麻薬密輸捜査官、「機密というマントをはおって、潜入捜査をする」のが仕事。
相棒は、猫のゴルゴンゾーラ。
英国歳入税関庁に正式に任命されている麻薬探知猫である。
レッド・ペルシャの雑種で、野良猫出身。見た目はボロっとした猫だが、その鼻は犬を上回る。
そんな二人が、霧深いスコットランドを舞台に、麻薬捜査に乗り出した!
その名も「スコッチ・ミスト作戦」。
現場に到着するやいなや、二人は殺人事件に巻き込まれる。
それも連続して。
どうやら相手は(英国歳入税関庁が)想像した以上の、大変な冷血漢らしい。
はたして二人は密輸の現場を押さえられるのか?密輸の犯人は?そして連続殺人犯は?
この本で面白いと思った点は、最初から最後まで徹底して、私ことD.J.スミスの視点からだけ描かれているということ。
スミス嬢を離れた視点や描写が、一度も出てこないのだ。
純文学やエッセイではこういう書き方はよくあるけれど、推理小説としてはこれは非常に珍しいと思う。
普通は、犯人たちの密談や、警察官や探偵の調査、被害者の状態など、さまざまなシーンが複雑に折り込まれ、それが推理のヒントともなり、真犯人捜しの楽しみともなっているのだけど、この小説は、執拗なまでにスミスの視点に固執していて、他の人たちの動向が全然分からないのだ。
しかも、このスミス嬢、麻薬密輸捜査官としては相当ドジではないか?
思いこみが激しいし、用心深さに欠けるし、すぐ転んだり落っこちたり、しかも女だからごつい男には体力的にかなわない。
こんなドジが一人で潜入捜査なんて危険すぎないか?
そんなおっちょこちょい捜査官に、猫がついているとすれば、普通はその猫が超優秀で、人間顔負けの大活躍をするものだが・・・片山刑事を助ける三毛猫ホームズみたいに・・・“麻薬捜査猫”ゴルゴンゾーラは、捜査猫としては優秀だが、主人公を守ったり助けたりしなきゃなんて意志は、微塵も見られないようなのだ。
しかもスミス嬢は、ゴルゴンゾーラに対してしばしば冷たい仕打ちをしている!
こんな猫人コンビ、機能するのだろうか(汗)。
タイトルになっているわりには、猫のゴルゴンゾーラはあまり活躍しない。
あらためて原書タイトルをみたら”No Suspicious Circumstances”(不審な状況は見あたらず)で、猫のねの字もなかった。
それはそれで、原タイトルもちょっと変?
だって本編そこら中、不審な状況だらけなんだから!
ゴルゴンゾーラは、猫としては職務に熱心すぎるし、物わかりが良すぎるきらいがあるけれど、すねたりひねたりすることもあって、まあ可愛い猫だ。
残念ながら作品中では、目を見張るような活躍とか、猫好きがワクワクしちゃうような猫的描写というのはなくて、私としてはその変がちょい物足りないというか、・・・もうちょっと書いて欲しかったなあ。
ところで、「ハギス」とは、スコットランドの伝統料理。
羊の内臓を、野菜や穀物・ハーブ・スパイスなどと一緒に、羊の胃袋に詰めて茹でたものだそうだ。
かなりクセが、いや、コクがありそうなレシピである(検索した)。
もうひとつ検索してみたのが、本に登場する古城の数々。
びっくりした。
どれも実に雰囲気があって、いつか訪問を夢見てしまうような、ロマンチックな古城ばかりではないか。
タンタロン城は四角くどっしりと立派で、ファスト城はよくまあこんな処にというような立地条件で、どちらもすでに廃墟なのだが、後ろにネッシーがぬっと立っていても不思議ではないような風情がある。
ぜひ画像検索してみてください(ファスト城の方はFast Castleと英語で検索すると出ます)。
(2010.2.16.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ねこ捜査官ゴルゴンゾーラとハギス缶の謎』
- 著:ヘレン&モーナ・マルグレイ The Mulgray Twins
- 訳:羽田詩津子(はだ しずこ)
- 出版社:ヴィレッジブックス (文庫)
- 発行:2009年
- NDC:933(英文学)小説 イギリス
- ISBN:9784863321250
- 402ページ
- 原書:”No Suspicious Circumstances” c2007
- 登場ニャン物:ゴルゴンゾーラ
- 登場動物:-