マイロン『図書館ねこデューイ』

マイロン『図書館ねこデューイ』

 

副題『町を幸せにしたトラねこの物語』

1988年1月18日は、とてつもなく寒い朝だった。
その寒い寒い朝、金属製の返却ボックスの中に、その子猫はいた。

アメリカ・アイオワ州北部の小都市、スペンサー。人口は1万人とちょっと。
そのほぼ中央に位置する、スペンサー公立図書館。
著者は、その図書館で25年間、うち20年は館長として働いてきた司書だ。

・・・と、読んですぐ、GoogleMapでスペンサーを検索してみた。
表示を「航空写真」に切り替えて、あれ?と思った。
画面上に方眼紙というか、グリッドのような升目が引かれている。
私、また知らずに何か操作しちゃったのかな、それとも猫がキーを踏んだとか?と、元に戻すボタンを探したけれど、見当たらない。
変なの~と拡大したりいじったりしているうちに、やっと気が付いた。
グリッドの升目ではなくて、これ、道路が写っているんだ!

我が日本でも、京都市のように、碁盤の目のように作られた街はある。
けれど、これほどの広さで、地面に整然と升目を引いてしまうなんて!
アメリカって国は・・・と、あらためて驚いてしまう。

脱線しました。

返却ボックスの中から発見された子猫は、そのまま、図書館勤務となった。
名前はデューイ・リードモア・ブックス。「デューイ」というのは、図書館には不可欠の十進分類法を生み出した人物の名。「リードモア・ブックス」は、そのまんま、「もっと本を読んでニャ」の意。

デューイが来て、著者はすぐに、周囲の変化に気が付く。

たとえば、年配の利用者たち。それまでもよく図書館を利用していた人々だが、もっと頻繁にくるようになり、もっと長時間を図書館ですごすようになり、スタッフとあいさつだけでなく話し込むようになった。その話題はいつもデューイのことだった。

今では図書館でただの暇つぶしをしているのではなかった。友人たちを訪ねてきているのだった。
page50

当時、アメリカの農業は、大不況に襲われていた。スペンサーは典型的な農村地帯の真ん中にある町だ。町中が暗く、誰もが悲嘆にくれ、失業や破産、離散が吹き荒れていた。
人々は図書館に来ては、職業紹介コーナーに座り込んだ。
彼らの辛苦に満ちた顔に笑顔が浮かぶのは、デューイが膝に乗ったときだった。

デューイに一番救われたのは、しかし、著者のヴィッキーだった。誰よりもデューイを必要としていた。誰よりもデューイに夢中だった。
ヴィッキーの一生は順風満帆とは程遠いものだった。病気、離婚、家族問題、他。
いつもかわらずヴィッキーに寄り添ってくれるのは、猫のデューイだった。

本では、デューイのことと同じくらいの熱意で、アイオワ州スペンサーという町のことが語られる。
著者の半生についても語られる。

デューイは2006年11月29日、内臓に大きな腫瘍が見つかり、安楽死させられた。19歳だった。

新聞報道によると、残念なことにその約2年後、スペンサー市は「公立図書館でのペット飼育は恒久的に禁止」という規則を決めてしまったそうだ。猫アレルギーの人々にも配慮しなきゃいかんと主張する人々の圧力で。

実はデューイがまだ存命だったころから、老いたデューイに全員が友好的とはいえない雰囲気もあったのである。市の理事会は、デューイが若くて美しい間は市の宣伝に大いに利用したのに、毛艶が衰えてくると、もう図書館に置いておく価値はないと考えるようになった。
著者は、そんな人たちとも戦わなければならなかった。さびしい話である。

とはいえ。
wikipedia(英語版)でスペンサーを調べたら、「スペンサー出身の有名人」の筆頭に、人間たちを差し置いて、 Dewey Readmore Books の名前が(2018.3.11.現在)。
思わず、ニンマリしてしまう私でありました。

マイロン『図書館ねこデューイ』

マイロン『図書館ねこデューイ』

マイロン『図書館ねこデューイ』

マイロン『図書館ねこデューイ』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『図書館ねこデューイ』
町を幸せにしたトラねこの物語

  • 著:ヴィッキー・マイロン Vicki Myron、Bret Witter
  • 訳:羽田詩津子
  • 出版社:早川書房 ノンフィクション文庫
  • 発行:2010年
  • NDC:934(英文学)随筆、エッセイ
  • ISBN:9784150503659
  • 375ページ
  • 原書:”DEWEY : The Small‐Town Library Cat Who Touched the World” c2008
  • 登場ニャン物:デューイ(デューイ・リードモア・ブックス)、マックス、マックス2世
  • 登場動物:犬

 

 

著者について

ヴィッキー・マイロン Vicki Myron

アイオワ州スペンサー生まれ。22歳で結婚し、娘ジョディを授かるが、夫のアルコール依存症が理由で離婚。シングルマザーとして子育てに励みながら、マンカト州立大学を首席で卒業、エンポリア州立大学で図書館学の修士号を取得、32歳で故郷スペンサーの公立図書館に就職し、34歳から5年間は副館長、その後20年間は館長を務めた。1988年にデューイと出会って以来、公私に渡るパートナーとして図書館と町を盛りたててきた。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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マイロン『図書館ねこデューイ』

8.2

猫度

8.5/10

面白さ

8.0/10

猫好きさんへお勧め度

8.0/10

マイロン『図書館ねこデューイ』” に対して1件のコメントがあります。

  1. nekohon より:

    【推薦:あんこ様】

    寒い冬の朝、アメリカの小さな田舎町にある図書館の返却ボックスに捨てられていたデューイ。

    サブタイトルに「町を幸せにしたトラねこの物語」とあるように、図書館で暮らすことになったデューイの存在が不況で喘ぐ町の人々の心に灯をあたえ、新たな絆をつくっていった、という実話です。

    「図書館」「ねこ」の2つのキーワードで私が読まないわけがない!(笑)本でしたが、改めて猫の持つ底知れぬ幸せパワーに脱帽。

    猫がいる図書館は欧米には多数あるとか。

    日本では到底叶えられそうもないことですが、陽だまりの書架の上でのんびりとお昼寝をする猫、そんな猫たちを眺めながらゆったりと自分の時間を過ごす利用者さんたち。

    時には膝の上で眠る猫と一緒にみなさんお昼寝、な~~んて図書館を想像(妄想)が広がりました。

    やっぱり宝クジあてて「猫本図書館」でも造りますか(笑)

    (2008.12.1.)

    *サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。

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