野澤延行『ネコと暮らせば』
副題:下町獣医の育猫手帳。
東京は谷中の獣医師が書いた猫本。獣医学の本ではない。現代の猫学一般とでも言うべきか。
この野澤氏の本音は明らかに「猫たるもの、自由に戸外を徘徊すべし」のようである。猫は野性味の強い動物だ、閉じこめるとストレスを感じ病気になる、というようなことを、本のあちこちで書いている。今時の獣医だから、完全室内飼いが増えていることも、さらにそれを政府が推奨していることもよくご存じだが、しかし「猫は外にいるべきだよなあ」という本音がちらちら見えるのである。
こういう方は男性に多い。管理されること自由を抑圧されることを嫌い、本能だから仕方ないなどという。
どうぞ。猫が本能通りに生きて問題がない世界だというのであれば。
猫は野生動物ではない。日本土着の動物でもない。今、猫が日本にいるのはヒトが連れてきたからである。野生ネコを、数千年の年月をかけて、今のイエネコに遺伝子操作したのもヒトである。今の日本の都会はアフリカ原産の野生動物が野性的に生活できる場ではない。
そしてヒトは猫を、自在に殺したり生きさせたりする力を持っている。
それは隠しようのない事実である。「猫たちがノンビリ道ばたで日向ぼっこしているようなのどかな風景」を理想とするのはかまわないが、夢と現実を混同させて被害をこうむるのは猫達である。
この「外飼い容認」以外の点に置いては、役に立つ情報や知識が多く、さすが動物の専門家が書いた良書だと思った。
特に第4章「野良猫との付き合い方」は考えさせられる内容だ。野良猫生活がどれほど厳しいか、具体例を挙げて書いてある。
たとえば、前日との最低気温差が2度を超えると凍死してしまう野良猫達。といってもマイナス20度とかの世界ではない。東京谷中周辺だから、冬の最低気温といっても摂氏10度近くあるのである。
にもかかわらず、基礎体力のない野良猫達は一晩に何頭も凍死してしまう。
・・・外猫の悲惨さをこんなによくご存じなのに、なおかつ「外飼い容認」なのはなぜだろうと疑問を感じざるを得ないが。
わずか219ページの新書版に、猫の歴史から猫問題・食事に健康・病気の事まで押し込んであるので、ひとつひとつの話題はあまり深くは論じられない、しかしこのページ数の割には、かなり詳しいことまできちんと書いてあると思う。
猫と暮らしていない方にも読んでほしい本だ。
(2004.10.2)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ネコと暮らせば』
下町獣医の育猫手帳
- 著:野澤延行(のざわ のぶゆき)
- 出版社:集英社新書
- 発行:2004年
- NDC: 645.6(畜産業・家畜各論・犬、猫)
- ISBN:9784087202465
- 219ページ
- 登場ニャン物: 多数
- 登場動物: -
目次(抜粋)
- まえがき―谷中界隈猫町散歩
- 第一章 縁あって猫の飼い主となる
- 猫はずっと人間のそばにいた
- 猫は飼い主の思い通りにはならない
- その他
- 第二章 猫には猫の秘密がある
- 猫には人を癒す力がある
- 猫は狩りをする動物である
- その他
- 第三章 猫を室内で飼う
- 増加している室内飼い
- 室内飼いは野性味を削ぐ?
- その他
- 第四章 野良猫とのつきあい方
- 捨てる、持ち込む、引き取る
- 寒風が吹き荒ぶ夜、悲しい末路
- その他
- 第五章 猫と暮らすということ
- 猫と話す
- 高齢の猫、猫の老後
- その他
- 第六章 猫の食事
- 猫は食事より狩りが好き
- 猫は魚好き?
- その他
- 第七章 猫の健康
- 家庭でできる猫の健康診断
- 親猫になったつもりで子猫の面倒をみる
- その他
- 第八章 猫の家庭医学
- 感染症(1)猫のトキソプラズマ
- 感染症(2)猫ひっかき病
- その他