河合隼雄『猫だましい』

河合隼雄『猫だましい』

 

ユング派心理学者による、猫本の解説。

河合隼雄氏は心理療法家。ユング派心理学についての本を始め、多数の著作がある。

私が河合氏でまっさきに思い出すのは『昔話の深層』という本だ。グリム童話をユング派心理学で見直し解説したものだ。『昔話の深層』を読んだのは二十歳前後の頃だったが、一見荒唐無稽で他愛なく見える童話に、こんなに深い意味が隠されていたのかと、当時は随分新鮮な驚きを覚えたものだった。今でこそ安っぽいテレビ番組でも、○○物語の深層心理は、なんてことを話題にしているけれど、当時はまだそういう心理学的解釈は一般化していなかった時代だったと思う。

さてこの『猫だましい』は、『昔話の深層』の猫編的な本である。
猫が出てくる書物を基にして、人間の心理を語ろうというもの。猫を扱ってはいても主役はあくまで人間の方だ。猫が何を象徴し、猫に何を託しているか。古今東西の猫本をとりあげ、あらすじを説明しながら、その裏に隠された人間心理の深層をさぐる。

嬉しいのは、河合氏が猫をマイナス的にとらえてはいない点だ。鍋島の猫騒動の話も取り上げられているが、ここでも、猫は単なる道具であり、真に恐ろしいのは人間だとされている。河合氏は「別に猫好きではない」と断っているけれど、猫好きの要素は十分におありの方なのではないかと思う。

語られる猫本は、『牡猫ムル』『長靴をはいた猫』『空飛び猫』『100万回生きたねこ』『トマシーナ』『猫と庄造と二人の女』『綿の国星』『牝猫』などなど。いずれも有名な本ばかりなので、猫本フリークの方々なら多分ほとんどご存じだろう。その他、日本昔話の中の猫や、鍋島の猫騒動など、幅広く取り上げられている。こんなに多くの猫本をご存じだというだけでも、河合氏は実は猫好きなのではないかと疑ってしまうのだ。

ええと、ただひとつ。
河合氏はこの本の中で「漱石はホフマンより大分後の時代だが、彼は牡猫ムルのことを全然知らなかった」と書いているけれど、それはちょっと違うと思う。『吾輩は猫である』の最終章の最後の方に、1回だけ「カーテル・ムル」の名前が出てくるからだ。ゆえに知らなかったはずはない。

しかし内容まで知っていたかどうかは疑問。漱石は英語は堪能だったけど、ホフマンはドイツ語で書いていた。

『猫』は『ムル』を参考に書かれたという人もいるようだけど、私は違うと思う。多分、多くの人達が推測しているように、『猫』を書き始めた当初は漱石は『ムル』を全然知らなかった。『猫』が有名になるにつれ、『ムル』との類似点を指摘され、それを潔癖な漱石が嫌い、結果、吾輩君を溺れさせ『猫』を終わらせてしまった、というのが真相ではないかと。と、これは私の勝手な推測であります。事実はわかりませんので、悪しからず。

巻末に大島弓子さんの感想マンガが付いています。そのマンガの中で、

拙作”綿の国星”では
「・・・もう一回読んでみなければ・・・」
と思いました

あの、著者ご本人様でしょ?と、可笑しい☆

(2004.02.04)

河合隼雄『猫だましい』

河合隼雄『猫だましい』

河合隼雄『猫だましい』

河合隼雄『猫だましい』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『猫だましい』

  • 著:河合隼雄(かわい はやお)
  • 出版社:新潮社・新潮文庫
  • 発行:2001年
  • NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
  • ISBN:4101252262 9784101252261
  • 264ページ
  • 登場ニャン物:
  • 登場動物:

 

目次(抜粋)

1 なぜ猫なのか
2 牡猫ムル
3 長靴をはいた猫
4 空飛び猫
5 日本昔話のなかの猫
6 宮沢賢治の猫
7 怪猫―鍋島猫騒動
8 100万回生きたねこ
9 神猫の再臨
10 とろかし猫
11 少女マンガの猫
12 牝猫
あとがき
感想マンガ”クロネコの思い出”大島弓子
参考文献一覧

 

著者について

河合隼雄(かわい はやお)

兵庫県生れ。京大理学部卒。京大名誉教授。日本のユング派心理学の第一人者であり、心理療法家。独自の視点から日本の文化や社会、日本人の精神構造を考察し続け、物語世界にも造詣が深い。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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河合隼雄『猫だましい』

8

猫度

8.0/10

面白さ

8.5/10

猫好きさんへお勧め度

7.5/10

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