大原まり子『一人で歩いていった猫』
第6回ハヤカワ・SFコンテスト受賞作。
これはかつて「猫」と呼ばれた人間の物語である。
猫は比類無き知性に恵まれていたが、おおかた先祖は地球産の猫だったので、外見は直立二足歩行の化け猫といったところだった。(後略)
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その猫には背中に羽が生えていた。ために天使猫と呼ばれた。正確にはその羽は、猫から生えているのではなく、一種の‘寄生動物’だったのだが。
大宇宙は、「調停者」とよばれる種族と、「アディアプトロン」と呼ばれる種族とが覇権を争っていた。アディアプトロン人は猫を皆殺しにしようとした。天使猫は調停者に捕まったお陰で殺害は免れたが、未開の星へ流刑されてしまう。
その未開の星とは、「地球」。
青く、美しく、水にあふれた星。そこに住む種族は、何度も高度に文明を発達させては自ら破滅するという愚を繰り返している。
猫が送られたのは、調停者達が、猫ならその野蛮な種族を正しく導くことが出来るかも知れないと期待したからだった。
しかし1匹の猫に何が出来る?・・・
いや、猫という種族は、もっとも神に近い存在なのだ・・・
だからこそアディアプトロン人にねらわれる・・・
SFですが、読後の感想はむしろ心理小説を読んだような、舞台こそ超未来の大宇宙ですけれど、扱われている内容はとても人間心理に密接で、幼い子供がふるえているようなイメージです。必死に暗中模索している心とでもいうのでしょうか。
派手なアクションや奇抜なテクノロジーに流れがちな男性SF作家とはひと味違う作品で、女性に特に好まれそうだと思いました。
この本は、表題の「一人で歩いていった猫」の他、「アムビヴァレンスの秋」「リヴィング・インサイド・ユア・ラウ゛」「親殺し」の4つから成り立っています。天使猫が出てくるのは主に「一人で歩いていった猫」ですが、他の3つもやはり猫で繋がっています。
(2006.2.8.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『一人で歩いていった猫』
- 著:大原まり子(おおはら まりこ)
- 出版社:ハヤカワ文庫
- 発行:1982年
- NDC:913.6(日本文学)SF小説
- ISBN:4150301492 9784150301491
- 255ページ
- 登場ニャン物:天使猫(エンジェルキャット)本名イリヤ・ヘクゴノイ・エルトロス・A、スペイラ・エイメニデス
- 登場動物:-
目次(抜粋)
一人で歩いていった猫
アムビヴァレンスの秋
リヴィング・インサイド・ユア・ラヴ
親殺し
あとがき
解説/中島梓