戸川幸夫『オホーツク老人』

戸川幸夫『オホーツク老人』

 

戸川幸夫動物文学セレクション4。

戸川幸夫氏の作品はどれも面白い。

中でも表題の『オホーツク老人』はインパクトの強い小説だ。
こういうものを読むと、圧倒されて、しばらく呆然としてしまう。

発表されたのは、今からちょうど半世紀前。知床半島といえば、今でもまず、厳しい寒さが連想されるだろう。小説の舞台となった半世紀前、知床半島は、はるかに遠い「秘境中の秘境」だった。ひたすらに凍り付いた、人を寄せ付けぬ土地。

そんな土地に生まれ、人生の最後までがんばった老人の、読むだけで震えがくるような一生を見事に描ききったのが、この短編だ。

老人はこの仕事を天職だと思っている。
(p.15)

その天職とは、冬の番屋を守る「お留守番さん」という仕事のことである。

夏は漁でにぎわう半島も、冬の訪れとともに無人になる。浜には、漁で使った番屋が残される。小さな番屋なら漁具も根こそぎ持ち帰るが、大きな番屋となるとそうはいかぬ。魚の臭いが濃く残された漁網や漁具はネズミたちに狙われる。大事な漁具を守るには猫を置く必要があり、猫を置くなら世話をする人間も置く必要があった。

その世話人が、「お留守番さん」なのだ。

知床半島の冬は長い。老人は半年間、たったひとりで番屋で暮らす。薪や食料は十分に保存されているというものの、当時の事とて、テレビやネットなんてものはない。吹雪に閉じこめられ、凍てつく北の大地で、老人にとっては猫たちは友人以上だった。命をかけて共に戦う、まさに「戦友」だった。・・・

この本の収録作品では、『砕けた牙』も好きだ。初めて読んだのは小学校の高学年だったと思う。それから、同じく日本犬の話で『北へ帰る』。ああ、日本犬のすばらしさよ。
『狂い角』『羆と缶詰』は、人間が野生動物にもたらす影響について考えさせられる。自分も同じ人間だ、よほど気をつけて生きないと。
『天皇の一分間』は、珍しく、コミカルタッチの小作品だ。

(2009.2.10.)

戸川幸夫『オホーツク老人』

戸川幸夫『オホーツク老人』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『オホーツク老人』
戸川幸夫動物文学セレクション4

  • 著:戸川幸夫(とがわ ゆきお)
  • 監修:小林照幸
  • 出版社:ランダムハウス講談社文庫
  • 発行:2008年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:9784270102107
  • 530ページ
  • 登場ニャン物:ミケ、黒
  • 登場動物:犬、ヒグマ、ハチ、ニホンジカ、シャチ、ほか

 

目次(抜粋)

オホーツク老人
コンちゃん
いぬ馬鹿
花ぞのの教育者
狂い角
羆と缶詰
砕けた牙
黒い背鰭
北へ帰る
天皇の一分間
解説

著者について

戸川幸夫(とがわ ゆきお)

1912年、佐賀県生まれ。旧制山形高校(現・山形大学)の理科に入学。1937年、東京日日新聞社(現・毎日新聞社)に入社。1955年、初の小説『高安犬物語』が直木賞受賞。以後、動物小説を次々と発表し、「動物文学」をジャンルとして確立。1965年には西表島でイリオモテヤマネコを発見。従軍記者経験から、戦記文学も数多く残した。紫綬褒章、三等瑞宝章受章。2004年5月没。

監修 小林照幸(こばやし てるゆき)

長野県生まれ。明治薬科大学在学中の1992年、『毒蛇(どくへび)』で第1回開高健奨励賞を受賞。1999年、『朱鷺(トキ)の遺言』で、第30回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞(当時)。信州大学経済学部卒。明治薬科大学非常勤講師(生薬学担当)。著書に『闘牛の島』『野の鳥は野に 評伝・中西梧堂』、『ドリームボックス 殺されていくペットたち』、『熟年恋愛革命 恋こそ最高の健康法』など多数。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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戸川幸夫『オホーツク老人』

8.3

猫度

7.0/10

面白さ

9.8/10

猫好きさんへお勧め度

8.0/10

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