辻真先『アリスの国の殺人』

辻真先『アリスの国の殺人』

 

チェシャ猫を殺したのは誰?編集長を殺したのは誰?。

綿畑は、ある2流出版社のマンガ誌の編集者。
でも彼が好きなのは児童文学。
愛読書は『不思議の国のアリス』
愛読書というより、アリスは恋人、アリスが好き過ぎて結婚したいと思っていたくらい。
もちろん、物語の中のアリスと、生身の綿畑が結婚できるわけがないことはわかっていたけど。

なのに、結婚する夢を見ました。
実にリアルに。

そして、その夢の中で、チェシャ猫が誰かに殺され、実生活では猫のチェシャは生きているが、かわりに(?)編集長が誰かに殺されてしまいます。

実生活の方は、まあ、ふつうの推理小説風に進んでいきます。
可笑しいのは、夢の世界、おとぎの世界の方。

アリスの世界と、日本の昭和のマンガの世界がドッキング。
不思議の国に、女王や三月兎や帽子屋がいるのはもちろんのこと、なぜかニャロメやヒゲオヤジが威張っていたり、鉄人28号が地響きとともに現れたり。
そして、言葉遊び。
そう、ルイス・キャロルの本のように。

まずはダジャレのオンパレード。
たとえばこんな具合。

ネコの尻尾をふんづけた
キャットいって逃げ出した
けれどチェシャは智恵者ネコ
ふまれる前に逃げるだろう(後略)
page140

しりとりや、クロスワードも。

(前略)
るとお前、チェシャ猫が姿を消すことも知らんのだ
、なんですっ!」
んで鈍い
っとしない顔で、ヒゲオヤジはひげをひねりました。
しかにしたいはここにあるわ
(後略)
page74

この調子で約4ページも続けるんですから、すごいとしか言いようがありません。
見る方は一瞬で気づく言葉遊びでも、考え出す方は相当時間がかかったのではないでしょうか。

童話も、昭和のマンガも知り尽くした人なら、もう楽しめること間違いなし。
とくに『アリス』ですね。
『不思議な国のアリス』を、子供だましの和製絵本ではなく、原文または原作を忠実に訳した和訳で読んだ人。
そういう人なら、きっと大受けするでしょう!

そして、・・・

こんなに楽しく、良い意味でふざけた内容の本が、まさかあんなエンディングに続くとは。
予想だにしなかったです。びっくり。

私の読後感は、芥川龍之介の『地獄変』みたい、でした。
選びぬかれた言葉と文章、そして、芸術至上主義ともいえる顛末。

本はあそこで終わってしまいましたが、このあと、彼はどうなっちゃうんでしょうね?
気になります・・・

辻真先『アリスの国の殺人』

辻真先『アリスの国の殺人』小気味よいほど、思い切り、言葉遊び♪

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『アリスの国の殺人』

  • 著:辻真先(つじ まさき)
  • 出版社:徳間書店 徳間文庫
  • 発行:1990年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:4195691052 9784195691052
  • 316ページ
  • 登場ニャン物:チェシャ、ニャロメ
  • 登場動物:ウサギ

 


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辻真先『アリスの国の殺人』

7.3

猫度

6.0/10

面白さ

8.5/10

猫好きさんへお勧め度

7.5/10

辻真先『アリスの国の殺人』” に対して1件のコメントがあります。

  1. nekohon より:

    【推薦:にゃぐ様】

    主人公・綿畑克二が夢と現実に挟まれて、殺人事件に巻き込まれていく。

    スナック「蟻巣」に住み着いている雄猫チェシャの可愛くない鳴き声と、克二の次々と見続ける夢の駄洒落と言葉遊びがしゃれている、大人のミステリー。

    昭和30年代の漫画の主人公と、童話の登場人物満載の一冊。

    (2002.5.6)

    *サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。

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