バッカー『恐竜レッドの生き方』

バッカー『恐竜レッドの生き方』

 

恐竜専門家が書いた恐竜小説。

私が子供の頃に持っていた動物図鑑に描かれた恐竜たちは、見るからに愚鈍そうだった。
ティラノサウルス・レックスは直立し、長い尾を重そうに地面に引きずっていた。
ブロントサウルス(その後アパトサウルスに改名)は、体が重すぎて地上は歩けず水中生活だったとされた。
ステゴサウルスの脳はあまりに小さいので、シッポの先を負傷しても痛みが脳に達するまでに数分かかったなんて書いてある本さえ珍しくなかった。

そんな、恐竜はのろくてバカで自分の体重さえ支えきれない冷血動物である、というイメージを覆したのが、この本の著者・バッカー博士だった。

バッカー博士の「恐竜温血動物説」は、最初冷笑をもって迎えられた。私が初めてバッカー博士の名を知ったのも、たしか「バッカーとかいう馬鹿な学者が・・・」なんて記述を読んでかえって興味をもったからだったと覚えている。
バッカー博士の話題作『恐竜異説』は、和訳が出版されるや買って夢中で読んだ。
それまで頭の中にうずまいていたモヤモヤがスッキリさめた気がした。

恐竜は、愚図でノロマでバカな失敗動物ではなかった!

当たり前である。でなきゃ、あんなに様々に進化して、あんなに長期間地球を制覇できたはずがない。
恐竜のイメージが大転換をとげた瞬間だった。

そのバッカー博士が書いた「恐竜小説」である。
面白くないワケがない。

バッカー『恐竜レッドの生き方』

バッカー『恐竜レッドの生き方』

主人公はユタラプトルの「レッド」。
映画ジェラシックパーク1話で、子供達を襲うラプトル像を考えればほぼ正しい。
映画では“ヴェロキラプトル”となっているが、ヴェロキラプトルはもっと小さく、映画の非公式な顧問役だったバッカー博士が、あんなに大きなラプトルはいないと悩んでいたところ、ユタラプトルが発見されて喜んだ、というエピソードは知る人ぞ知る有名な話である。

レッドは、知性も感情も豊かで、家族愛にあふれた、きわめて魅力的な恐竜として描かれている。
レッドをそのまま現生の肉食動物、たとえばオオカミと置き換えても、違和感なく通用しそうだ。
そのくらい、高度な動物として描かれているのである。
そして、これこそ、バッカー博士の考える恐竜像だったのだろう。

バッカー博士は間違いなく、世界中の恐竜ファンを熱狂させ、その数を倍増させた。
その後の恐竜学の発展は目を見張るものがある。

そして2009年の今、1996年に発行されたこの文庫本の挿絵はすでに、若干の古さを感じさせるものとなっている。
わずか10年余で、それほどまでに恐竜のイメージが変わってしまったということである。

しかし内容は今読みかえしても全然古くなかった。
むしろ、活発な恐竜像が定着した今のほうが、書かれた当時よりさらに楽しく読める書物となったかも知れない。

恐竜の知識は特に必要有りません。
動物が好きな人なら誰でも楽しめる内容。ぜひどうぞ。

(2009.11.8.)

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『恐竜レッドの生き方』

  • 著:ロバート・T・バッカー Robert T. Bakker
  • 訳:鴻巣友季子(こうのす ゆきこ)
  • 出版社:新潮社 新潮文庫
  • 発行:1996年
  • NDC:933(英文学)小説 アメリカ
  • ISBN:4102485015 9784102485019
  • 365ページ
  • 口絵
  • 原書:”Raptor Red” c1995
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:ユタラプトル、他恐竜たち

 

著者について

ロバート・T・バッカー Robert T. Bakker

ニュージャージー州生まれ。イエール大学卒業後、ハーバードで博士号取得。23歳で論文”The Superiority Of Dinosaurs”を発表。恐竜は単独行動をするノロマな冷血動物ではなく、活発で社会性のある温血動物だったという説を世に問い、一躍名を馳せた。映画『ジェラシック・パーク』では、恐竜を製作した特殊効果技師たちの非公式な顧問役を務めた。ワイオミング州テイト博物館恐竜部門主任。著書に『恐竜異説』がある。コロラド州在住。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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