リリアン・J・ブラウン『猫は糊をなめる』
資産家一家に、いったい、何があった?
前作で、クィラランの広大なK屋敷は全焼してしまった。
残されたのは、分厚い石造りの外壁だけ。
クィララン自身は、ガレージ上の元使用人部屋を本格的に自分用の住居に改造し、快適に暮らしていたが。
クィラランは、跡地に劇場を建てることにする。
町の劇団にも参加して、練習に精を出す。
警察署長ブロディの娘、フランセスカは、クィラランの新住居のインテリアデザイナーであり、また劇団のリーダーでもあった。
当然の権利として(?)、クィラランとも頻繁に会うことになるばかりか、合鍵を使って部屋の中にまで入ってくる。
また劇場の建築家は、偶然にも、アラコークだった。クィラランが昔、デートしていた女性である。
それやこれやで、クィラランの意中の人、ポリー・ダンカンは誤解しっぱなし。
クィラランは、ポリーの事も気になりながら、他にも気になることが多く、つまり、新聞の発行や、芝居や、猫たちのことなどで忙しい。
そして、猫たち。
ココは糊を舐めることと、本の匂いを嗅ぐことにはまっていた。
封筒の糊も、切手の糊も、つぎつぎと舐めとってしまう。
そして、本棚に登っては、本を落とす。最近はシェイクスピアではなく、もっぱらメルヴィルの『白鯨』とか、船舶関係の本とかだ。
ヤムヤムは、相変わらず、誰かの靴紐をほどくことに夢中。
2頭はとても仲が良く、しばしば双子のように同じポーズで座っていたりする。
そして、ココはクィラランに何かを伝えたがっているようだったが。
若夫婦が射殺された。
両親は銀行を経営、息子たちもその銀行に勤め、周囲の評判もよかった。
自宅は物色されていた。犯行を目撃された盗人が、若夫婦をとっさに射殺してしまったようだ。
最近、町では、数人の若者たちが、落書きや万引きなどの悪行を繰り返していた。
警察も、人びとも、犯人はそのチンピラどもに違いないと決めつけた。
そして、そのチンピラどもが事故死してしまったとき、警察も人々も、事件は済んだと思った。
しかし、クィラランは変だと感じていた。
あのチンピラども、たしかに悪ふざけはしていたけど、人を殺すような者たちとは思えない。
真犯人は他にいるのではないか?
ココも何かを感じているようだった。
ココが言葉を話せたら!
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前作より、この作品の方が動きがあり、面白く読めました。
前作はちょっとだらだらしていたからなあ(汗)。
クィララン、今回も、モテているような、モテていないような。
彼はムース郡一の資産家で、口もうまいのだから、本気でくどけばたいていの女性はなびきそうに思えるのですが、どうも押しが弱いようです。
『猫は・・・』シリーズに登場する女性たちは、皆、個性的で、なかなか魅力的。
でも、女性たちに色気とか肉感的なものは、ほとんど感じられないんですよね。
その辺が、女性作家の作品といえるでしょうか。
クィラランが重視するのも、若さや肉体ではなく、知的な会話。
クィラランの女性関係もですが、今回は、アーチ・ライカの女性の好みにはちょっとびっくりしましたヨ。
まさか、彼女に目を付けるとはねえ(笑)。
今回、ココは、かなり分かりやすいヒントを出していました。
なのに、それに対するクィラランの勘というか推理力が、今回はちょっと鈍かったような?
でもココちゃん、あまり変なものは舐めないようにね。お腹をこわしたら大変。
それから、スカンクを追いかけるのも止めた方がよいかと。
このシリーズ、ミステリーですが、暴力シーンはないし、暴言もないし、残酷な描写もない、さらに、セックスもありません。
安心して読めます。
上品なミステリーだと思います。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫は糊をなめる』
『猫は・・・』シャム猫ココシリーズ
- 著:リリアン・J・ブラウン Lilian Jackson Braun
- 訳:羽田詩津子(はた しづこ)
- 出版社:早川書房 ハヤカワ文庫
- 発行:1992年
- NDC:933(英文学)アメリカ長編小説
- ISBN:415077207x 9784150772079
- 308ページ
- 原書:”The Cat Who Sniffed Glue” c1988
- 登場ニャン物:ココ(カウ・コウ=クン)、ヤムヤム、ウィンストン
- 登場動物:-