リリアン・J・ブラウン『猫は床下にもぐる』

ブラウン『猫は床下にもぐる』

 

湖畔のキャビンで、夏をのんびり過ごそうと思っていたのに。

クィラランは、あることを思いついた。
この夏は、ムースヴィルのキャビンでのんびり過ごそう、と。
・・・止せば良かった!

キャビンに来たものの、どうも狭い。
わずか数年前は、このキャビンをご機嫌で借りた男なのに。
今来てみると、ひと夏を暮らすには狭すぎると感じてしまった。
だから、周囲の反対を押し切って、増築しようなんて計画を立ててしまった。
・・・止せば良かった!

最初の大工は好青年だった。
なのに、突然、来なくなってしまった。
急いで工事を終わらせたいクィラランは、別の男を雇った。
これがまあ、なんともいいようのない男で。
クィラランはイライラされっぱなし。

しかも、この男まで、来なくなってしまった!

災難はそれだけでなかった。
キャビンではあらゆるものが次々と壊れてしまったり。
無人島で遭難しかかったり。
あろうことか、殺人犯の容疑をかけられたり。

まさに、散々なサマーバカンス!・・・

ブラウン『猫は床下にもぐる』

ブラウン『猫は床下にもぐる』

*****

今回の話は、いつもとちょっと出だしが違いました。
冒頭わずか数ページで、こう宣言されちゃうのです。

いざ休暇が始まってみると、そう簡単に事は運ばなかった。夏休みは死んだ蜘蛛で始まり、死んだ大工で終わったのである。しかもジム・クィララン―――尊敬すべきジャーナリストであり、郡随一の金持ちであり、正真正銘の善人―――は殺人の嫌疑をかけられたのだ。
page9

こうしてストーリーは、「不吉な匂い」をプンプンさせながら、進行することになります。

ひとつひとつは小さな出来事でも、重なれば頭にきます。
他人の癖も、いちど気になれば耐えがたくなります。

大自然に囲まれて、ゆったり静かな休暇を期待していたのに。
まさかこんな、ドタバタ、イライラ、さらには遭難にトルネードなんて騒ぎになるとは!

ココはその間中、一貫して床下に興味を示していました。
床下に潜り込んで出てこなかったときさえありました。
クィラランは大男です。狭い床下になんか潜りたいはずはありません。
それでも、最後はココを捕まえに潜らざるを得なくなり、そこでとんでもないモノを発見することになります。

またしても、ココのお手柄!

そして、今回はヤムヤムも少し手伝いました。
ヤムヤムの習癖癖が、けっこう重大な証拠ともなったのです。

全体的にストーリーがざわざわと進んでいく感じで、変な表現だけど「ミステリー小説らしい」?
暴力シーンや、殺害シーンや、おどろおどろしい死体描写など、いわゆる「ミステリー小説」にありがちな犯罪シーンを全く出さないまま、立派な「ミステリー小説」を組み立ててしまうブラウン女史の才能に脱帽。
猫たちの扱いにも好感。
今回もクィラランは、ココとヤムヤムを最愛の家族として、自分自身よりも大切に扱います。
ココが床下から出てこなかったときは、さすがの彼も腹を立てましたが、自身の身に何かあれば、まっさきに猫たちを思いやります。

『猫は・・・』シャム猫ココシリーズ まとめはこちら

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『猫は床下にもぐる』
『猫は・・・』シャム猫ココシリーズ

  • 著:リリアン・J・ブラウン Lilian Jackson Braun
  • 訳:羽田詩津子(はた しづこ)
  • 出版社:早川書房 ハヤカワ文庫
  • 発行:1993年
  • NDC:933(英文学)アメリカ長編小説
  • ISBN:4150772088 9784150772086
  • 333ページ
  • 原書:”TheCat Who Went Underground” c1989
  • 登場ニャン物:ココ(カウ・コウ=クン)、ヤムヤム
  • 登場動物:-

 

 

著者について

リリアン・J・ブラウン Lilian Jackson Braun Bettinger

1913年6月20日 – 2011年6月4日。アメリカの推理作家。
10代の頃から約30年、新聞社に勤務。
1962年、飼い猫のシャム猫がマンションの10階から突き落とされて殺された怒りと悲しみを忘れるために、記者業の傍ら執筆した短編「マダム・フロイの罪」(原題:The Sin of Madame Phloi)が『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』6月号に掲載され作家としてデビュー。エラリー・クイーンに「もっと猫の話を書くよう」勧められたことから、ココ・シリーズが生まれたという。
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