藤田紘一郎『サナダから愛をこめて』
副題『信じられない「家族病」のエトセトラ』。
藤田紘一郎先生のエッセイは、寄生虫や病気を解説した医療エッセイなのだけれど、いつも陽気で楽しく、面白い。
が、この本は、ちょっといつもと雰囲気が違うような気がする。
例によってだじゃれ満載の軽快な文章ではあるのだが、根底に、なんだろう、いつもは無い怒りのようなものが感じられる。
アメリカでテロがあった。
世界貿易センタービルが両棟とも崩壊し、炭疽菌が送りつけられた。
一方ヨーロッパでは狂牛病が深刻化する。
思い上がった人間達にたいする、藤田先生の静かな怒りを感じる。
日本は潔癖性が進んで清潔すぎる国になった。
その日本人はしかし大の旅行好きの輸入好き。
大量の海外製品(食品を含め)を輸入して自国にどんどん入れている一方で、雪崩を打つような勢いで海外旅行に出かける。
日本国内は清潔すぎて、日本人の免疫力は落ちている。
その上、平和ボケしきっていて、リスク管理意識が恐ろしく低い。
当然ながら、外国で様々な病気/寄生虫をもらってしまう。
さらに困ったことに、これだけ医学が進んでいる日本国内に、そういう外国産寄生虫症を診断できる医者がきわめて少ない。
当然だ。
日本では滅多に見られない病気、医者だって診たことがないのだ。
この本を読むと、海外に行くのが怖くなってしまいそうだ。
その上、この藤田先生、危険な目に何回もあっていらっしゃる。
あまりにアッサリと面白く書いてあるから、つい読む方ものんきに読んでしまうが、よく考えればとんでもなく危険じゃないですか。
反乱軍にホテルを占拠されて捕虜になったり。
よくぞご無事でといいたくなる。
やはり、日本国内の我が家で、膝の猫を撫でながら、のんびり本でも読んでいるのが一番安全で幸せなのかもしれませんね。
(2006.6.5)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『サナダから愛をこめて』
信じられない「家族病」のエトセトラ
- 著:藤田紘一郎(ふじた こういちろう)
- 出版社:講談社文庫
- 発行:2001年
- NDC:460(生物化学、一般生物学)
- ISBN:4062733285 9784062733281
- 280ページ
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:寄生虫たち
目次(抜粋)
第1章 炭疽菌、狂牛病、そしてエコノミークラス症候群
第2章 地球は一つ、人類はみな人間
第3章 サムライ日本の潔癖症
第4章 世界の飲める水・飲めない水
第5章 グルメの旅は苦目の旅
第6章 こんなことでは失楽園
第7章 狙われたヤワ肌
第8章 お土産チェックをお忘れなく