ゴンザレス/フライシャー『猫たちを救う犬』

ゴンザレス/フライシャー『猫たちを救う犬』

 

元保護犬が、今度は猫たちを救う!

フィリップ・ゴンザレス氏は、何不自由ない生活を送っていた。
スチームパイプの熟練工として文句のない給料を得ながら、独身男らしく毎日を謳歌していたのだった。

ところが、ほんのちょっとした不注意から機械に巻き込まれ、命こそとりとめたものの、体の右側の機能を多く失ってしまう。

当然、職も失った。自宅のアパートに引きこもっての、茫然自失の日々が続いた。何をする気力もない。まさに生ける屍。

心配した友人が、ゴンザレス氏を無理矢理、動物愛護協会に引っ張っていき、・・・

そこで氏は1匹の奇跡の犬に出逢う。

氏は当初、強くて逞しい純血犬を希望していた。
ドーベルマンの雄とか。

が、この犬は氏の希望とはかけはなれた外見だった。
ちっぽけで、痩せこけていて、雑種。

しかし

その犬は、わたしが出会ったなかでもっとも魅力的な顔だちをしていた。聡明で知的で好奇心旺盛でかわいらしくて、・・・

深い英知と、限りない優しさと、寛大なる精神とをあらわしていたのだった。彼女は真に精神的な存在だった。
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ゴンザレス氏はたちまち、ジニーのとりことなった。
生きる目的ができた。

が、それだけではなかった。

ジニーはある日、散歩の途中で突然「弓から放たれた矢のように」一匹の野良猫に走り寄った。
不思議なことに、猫は逃げなかった。それどころか2匹は旧知の間柄のように親しげに挨拶をかわす。

ゴンザレス氏は仕方なく、手持ちのドッグフードの缶を開けて猫に食べさせた。

ジニーの奇跡の天分が次々と発揮される。なぜかジニーという犬は、困っている猫、ハンディを負っている猫を見つけ出す天才だったのである。

猫がどんな所に隠れていても、ジニーは、必ず探し出してしまう。そしてゴンザレス氏を見上げ、独特のクンクン鳴きをする。

「おねがい・・・ちょうだい・・・ちょうだい・・・あの猫をちょうだい」

ゴンザレス/フライシャー『猫たちを救う犬』

ゴンザレス/フライシャー『猫たちを救う犬』

ゴンザレス氏は猫が好きではなかった。が、ジニーにはぞっこんだったので、そのジニーに強く頼まれると無視できず、結局猫たちを自宅に連れて帰って世話をする。
さらに散歩途中で出会う野良猫たちにもせっせとフードを運ぶようになる。
猫のためではない、ただジニーを喜ばせるために。

しかしもちろん、いつまでも猫嫌いではいられなかった。
猫たちと身近に接しているうちに、ゴンザレス氏はしだいに猫たちに愛情を感じるようになり、しまいにはジニーと同じように猫たちも我が家族として深く愛するようになった。
また、ゴンザレス氏を動物愛護協会に連れて行った友人のシーラも、犬派から“キャット・レディ”に変身した。

この本はジニー賛歌である。
ジニーがどんなにすばらしい犬であるか、どれほど深い愛情にあふれ、どれほど勇敢で且つ聡明、どれほど驚異的な探知能力を持ち、どれほど周囲にありったけの幸せをばらまく奇跡の犬であるか、しつこいほど書いてある。 ゴンザレス氏はジニーに対する賞賛の言葉を惜しまない。 ジニーこそ神がつかわした天使だと褒めちぎる。 いくら褒めても褒めたりないという口調である。

実際、ジニーはすばらしい犬だ。
世にまたとないようなすばらしい犬だ。

しかし、私は、それ以上に、ゴンザレス氏がすばらしいと思うのだ。

普通の人間は、いくら愛する飼い犬の頼みであっても、障害を抱えた哀れな猫を家族に迎えたりはしない。
もし迎えればその世話が大変なことは一目瞭然だからだ。
それも1匹ならよい。
ジニーは次々と障害猫を見つけ出しては、家族に迎えろとせがむのである。
ジニーが見つけゴンザレス氏が引き取った猫の総数は16匹。しかも

これはほんの一時の数字だろう。十七匹め、一八匹めがあらわれるのもそれほど先のことではあるまい。
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その上、忘れてはならないことは、ゴンザレス氏自身も体の半分がよく動かせない障害者だということだ。生活費は労災保険だけが頼りである。

にもかかわらず。

ゴンザレス氏は文句一つ言わないどころか、ひたすらジニーを愛し、ひたすら猫たちのために尽くし、そして、ひたすら神に感謝している。こんなすばらしい愛を与えてくださったことを。こんな充実した日々をくださったことを。謙虚な精神で、こころから感謝しているのである。

ゴンザレス氏はジニーを天使だと褒めるが、私は、ゴンザレス氏こそ天使の生まれ変わりではないかと思うのである。

(2007.7.6.)

*続編⇒『今日もまた猫たちを救う犬』

ゴンザレス/フライシャー『猫たちを救う犬』

ゴンザレス/フライシャー『猫たちを救う犬』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『猫たちを救う犬』

  • 著:フィリップ・ゴンザレスPhilip Gonzalez/リアノー・フライシャー Leonore Fleischer
  • 訳:内田昌之
  • 出版社:草思社
  • 発行:1996年
  • NDC:934(英文学)随筆、エッセイ
  • ISBN:479420695X 9784794206954
  • 206ページ
  • モノクロ
  • 原書:” The Dog Who Rescues Cats ; The True Story of Ginny ” c1995
  • 登場ニャン物:マダム、ヴォーグ、レヴロン、ベティ・ブープ、トプシー、ソロモン、その他多数
  • 登場動物:ジニー、モントゥース(以上犬)、他

 

目次(抜粋)

  • 1.フィリップ
  • 2.ジニー、家を見つける
  • 3.ジニー、猫を見つける
  • 4.ベティ・ブープと仲間たち
  • 5.心のレーダー
  • 6.浜辺のジニー
  • 7.パラダイスの猫たち
  • 8.小さな盲目のジャッキー
  • 9・天使のジニー

 

著者について

フィリップ・ゴンザレス Philip Gonzalez

1950年生まれのプエルトリコ系アメリカ人。スチームパイプ取り付け工として何不自由ない生活を送ってきたが、40歳のとき事故に遭い、右腕の機能の多くを失う。職も失って落ち込んでいたときにジニーと出会い、ジニーとともに傷ついていたり障害をもっていたりする野良猫の救助活動を始めて、今日に至る。ニューヨーク州ロングアイランド在住。

リアノー・フライシャー Leonore Fleischer

作家。映画のノヴェライゼーションを多く手がける。邦訳に『アニー』(ハヤカワ文庫NV)『靴をなくした天使』(扶桑社ミステリー文庫)『永遠の愛に生きて』(角川書店)『レインマン』(ハヤカワ文庫NV)などがある。5匹の猫とともにニューヨーク州北部に住む。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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ゴンザレス/フライシャー『猫たちを救う犬』

8.9

動物度

9.8/10

面白さ

8.0/10

愛猫家へお勧め度

9.0/10

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