映画『ターナー&フーチ すてきな相棒』
世界一ブサイクな犬の映画。
ターナー・スコット捜査官。
田舎町の一軒家に一人暮らし。
潔癖症で几帳面。
キチキチに片付けられた室内、シミひとつない冷蔵庫、ぴかぴかに磨かれた靴。
愛車の中にはハンディ掃除機を常備。
もちろん、お顔の手入れも怠らない。
そんなターナーは近々転勤予定で、今は引継ぎの最中だった。
埠頭の一角に住むおじいさんが、また警察に通報してきた。
近所の工場が怪しい、変な音がする、調べてくれろというのだ。
ターナーたちは一応調べに行くが、いつものクレームとて、あまり重要視しなかった。
ところが、このおじいさんが殺されてしまう。
幸いなことに目撃者がいた。
正しくは目撃犬。
おじいさんの愛犬である。
名前はフーチ。
フーチは、ボルドー・マスティフ、または、フレンチ・マスティフと呼ばれる大型犬である。
ボルドー・マスティフは元々は闘犬として造りだされた犬種であり、体重は40kgを超える。
巨大な頭、強力な顎、どっしり頑丈で筋肉質な体躯はさすが闘犬の血筋。
そしてその顔は、見るからになんともおそろしい・・・ほどに、ブサイク!
シワシワで、鼻ぺちゃ。
ホッペはタルタルに垂れ下がっているし、口元には常にダラーリ糸を引くヨダレ。
頭をブルブル振るとそのヨダレが周囲一面に飛び散るというすさまじさ。
目つきも悪ければ愛想も悪く、汚くて、臭くて、とんでもない犬。
問題は見た目だけでなかった。
フーチは躾らしい躾をされていなかった。
しつけられていない大型犬がどれほどのものか、わかる人にはわかるだろう。
しかもこのフーチ、自由奔放で頑固、顔に似合わぬ遊び好きときたもんだ。
映画史上、最も不細工で、最も手のかかるワンコのご登場である。
こんなフーチを、ターナーが預かることになったのだからたまらない。
ターナーは犬に関しては全くの初心者。
ボルドー・マスティフといえば、犬ベテランでさえてこずる犬種である。
ターナーの手におえる相手ではない。
ドアはぶっ壊す。
ソファは齧る。
レコードコレクションは部屋中にぶちまける。
冷蔵庫は開けて盗み食い。
革靴はチューインガム化。
ターナーのベッドは犬ベッドにリフォームされ。
しかもどこを触っても、ヨダレ、涎、よだれで、ねっとりの、べっちょり!
ブチ切れるターナー。
もう我慢できねぇこの野郎、ぶっ殺してやる!
と拳銃を片手に追いかけたら、・・・
あらら、フーチの逃げ込んだ先は、ターナーの憧れの君、美人獣医の家じゃないの。
でかしたぞ、行けぇ!
おもわずほくそ笑むターナー。
*****
汚犬に翻弄される潔癖男を演じるトム・ハンクスもいいけれど、私はやっぱりなんといっても、フーチちゃんだ。
ブサイク?
いえいえ、ブサ可愛いといってほしい。
キョトンとしたお目目はよく見れば愛らしいし、いつも困ったような表情には独特な味がある。
ヨダレはブル系の宿命で仕方ない。あんな体型に改造した人類の罪。
ターナーにひどい扱いを受けても、決して怒らないおおらかさ。
フーチが人を襲う時は、必ず襲わなければならない理由があって、しかも、そんな時でさえちゃんと力をセーブしていて、必要以上に人を傷つけない。
知れば知るほどフーチって犬は、すばらしく賢く、愛情深く、頼もしいワンちゃんなのだ。
ストーリーは、動物ものお決まりのコースをたどっていく。
つまり、犬が大活躍して、犯人を捕まえ、恋を実らせ、そして、
しかし、・・・
何回見ても、フーチちゃんに大拍手なのです。
とはいえ、どれほどフーチちゃんぞっこんでも、ボルドー・マスティフを飼う気にはなれません。
ええ、なれませんとも。
だってあの巨体を散歩させる体力はありませんから。
(散歩不用なほどの豪邸に放し飼いなら欲しいかも!)
なお、結末については、人によって賛否両論だろう。
けれども私はあれでよかったのだと思う。
昔から「賢犬は二君に仕えず」というではないか。(*注)
残念ながら猫は、美猫も醜猫も出てきません。
(2012.9.10.)
(*注)
正しくは「賢臣は二君に仕えず」。中国の古典『史記』にある言葉。
なお、日本犬、中でも甲斐犬や四国犬は、「一代一主」の気風が強いといわれている。
その犬一代(=一生)において、犬が主と認める者は一人切り、その人以外はどれほどお世話されても主とは認めない、という性格である。
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映画『ターナー&フーチ すてきな相棒』
TURNER & HOOCH
出演: トム・ハンクス, メア・ウィニングハム, クレイグ・T・ネルソン
監督: ロジャー・スポティスウッド
1989年制作 アメリカ
ワーナー・ブラザース 99分
JAN:4959241931474