上智大学・世界食料デーグループペットフード班著『アジアを食べる日本のネコ』
猫缶は、どこの誰がどのように作っているのか。考えされらる本。
今、テレビや新聞でマグロのニュースが取り上げられることが多い。
世界的なマグロの乱獲で生息数が減った、だから漁獲規制しなければいけない、もうじき「マグロを食べられなくなる」云々。
今、日本では、いつでもマグロの刺身が買える。
365日、いつでも買える。
私はこれを不気味に思う。
なぜ1年中マグロの刺身が店頭に並んでいないといけないのか?
お米ならともかく、マグロの刺身は生活必需品ではないはずだ。
いつから日本人消費者は、そんな我が儘、そんな贅沢をいうようになったのだろう。
いや、違う。
おそらく消費者が我が儘を言っているのではない。
売る方が、金儲けのために、無理矢理365日マグロの刺身を提供しているのだと見る方がより正しい。
そして、同じく金儲けのために、日本人は世界中でマグロを取りあさり、買いあさっているのである。
この本は、上智大学在学中の学生達が、自らの足で歩き回って調べたことをまとめた本である。
学生達は、インドネシアの漁民の暮らしが貧しいのに驚き、工場で働く女の子達のけなげさに胸を打たれ、そして、彼らが命を削って生産したたマグロ缶が実は「日本のネコが食べている」ことを心底恥ずかしく思う。
もちろん、学生達とてネコが悪いわけではないとは知っている。
知ってはいるものの、やはりネコに対する悪感情は隠せない。
たとえば、マンガに登場するネコの名前は「とんま君」。
その他、ネコを非難する口調は随所に目立つ。
学生達は、本の中で「日本の御ネコ様」と書き、日本のネコが贅沢だからインドネシアの貧しい人たちは安い魚を食べられなくなったと主張している。
ある面では事実だろうと思う。
しかし論点がずれているような気がしてならない。
攻撃すべき相手はネコではなく、人間のはずだ。
日本のネコを悪者にしたって何も始まらない。
まず人間の意識を改革しなければ。
その為には、せっかくここまで調べたのだから、「贅沢なネコが悪い」ではなく、どれほど日本人の金儲け主義や消費感覚が狂っているかということを、もっと論じて欲しかった。
なぜ1年中安い価格でマグロの刺身が店頭に並んでいるのか?
なぜ1年中マグロを食べなきゃならないのか?
この本が最初に出版されたのは1993年。
その後もペット産業が伸び続けているのはご存じの通り。
そして人々の関心が食べることに異常に傾注しているのもご存じの通り。
テレビといえば馬鹿馬鹿しいほどに食べるシーンばかりだし、雑誌も広告もブログも食べ物であふれている。
その一方・・・
日本の食料輸入率は高くなるばかり。
毎日の食卓のほとんどを外国に依存している。
なのに日本の農村は、継承者不足で泣いている。
農地は耕されずに放置されている。
もっと農業をして、季節の野菜を美味しくいただいていれば、マグロなんか要らないはずなのに。
その方が健康的で体にもお財布にも地球環境にもずっと良いのに。
いったい日本人はどうしちゃったのだろう。
そして、個人消費者以上に検討すべきは、日本の政府のあり方。
日本のODAの実態、また日本の大企業、商社や銀行等の金儲け主義なのだが・・・
小さな私は、グルメ情報に踊らされることなく、自分の畑で採れた季節の野菜を主食とすることで、せめてものささやかな抵抗をしていきたい。
(2007.5.28)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『アジアを食べる日本のネコ』
- 著:上智大学・世界食料デーグループペットフード班著
- 訳:姓名(ひらがな)
- 出版社:梨の木舎
- 発行:1992年4月初版発行 1996年7月増補版二刷発行
- NDC:667.9 水産製造、水産食品
- ISBN:481669305X
- 135ページ
- モノクロ
- 登場ニャン物: -
- 登場動物: -
目次(抜粋)
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- 増補版にあたって
マンガ「マグロはどこへ行ったの?」
プロローグ――ネコ缶への私たちの挑戦!
- 一 日本の御ネコ様
- 1 ベンツに乗るネコ
- 2 ペットフードの出現
- その他
- 二 ネコ缶はどこから来ているのか
- 1 マグロを獲る人びと――フィリピン・パワラン島
- 2 ペットフード生産国タイで
- その他
- 三 マグロとネコ缶、アジアと日本
- 1 マグロを買いあさる日本人
- 2 インドネシアのODAマグロ漁港を訪ねて
- その他
- エピローグ――知らずに買っていませんか
- 私たちが読んだ参考文献
- あとがき
- 増補 新しいデータ
- 再びタイを訪れて
- ●紙芝居『缶詰工場で働く女の子――チュリンの一日』
- 著者・プロフィール