坂本徹也『ペットの命を守る』

坂本徹也『ペットの命を守る』

副題『いまからでも遅くない 病魔からこう救え!』。

最初に一言ちょこっと文句を。
この本は「ペット」と題されているけれど、内容は犬のことしか書いてない。
犬だけを対象とするなら題名も正しく「犬の命を守る」と書いて欲しかった。
犬はペットの一員だけど、犬イコールペットではない。猫もウサギもシマリスもハムスターも金魚もミドリガメもクワガタもその他その他も皆ペットの一員だ。

この一点を除けば、しかし、すばらしい本だ。

坂本氏の本はどれもよく調べてあって、しかも、こういう告発本にありがちな、読者の恐怖心や猜疑心をあおることだけを目的としているような軽薄な部分はない。
坂本氏の立場は明確にしつつも、広くインタビューして様々な意見を取り入れている。

第1章では、犬をめぐる環境について書いてある。
新建材で作られた空間で生きる今の犬たち。
都会の空気中にも家の中にも様々な有害物質があり、アトピーや喘息、癌などの原因となる。
フローリングの床は滑りやすく腰に負担がかかり、エアコンで温度調整された生活は自然なリズムを狂わせる。
犬を甘やかして肥満させる飼い主。あるいは犬にべったり依存する飼い主。
犬を取り巻く環境のすべてがストレスとなりうるという。

第2章では、ペットフードについて書いてある。
著者が一番力をいれたと思われる章だ。

たとえば、ペットフードに混入される酸化防止剤について。
ペットフードによく使われるBHA、BHT、エトキシキンなどの酸化防止剤。
いずれも発ガン性などの副作用が報告されている。
しかし、日本にはそれらの薬剤を規制するいかなる法律も無いばかりか、表示義務さえないのだ。

「BHA、BHT、エトキシキン・・・みんな向こう(アメリカ)ではラベルに表示されていました。
あとこの調査レポートは、ゼイ・ユーズ・プロダクトミール、つまりくず肉を使っていますと。それからゼイ・ユーズ・ソルト、つまり塩を使っていますとも報告しています。だけど、これらはいずれも日本に入ってきたときには無添加、自然食がキャッチフレーズになっているんです。これじゃあサギじゃあないですか。」
page 104

「いまの日本では、自然食と言っても無添加と言っても、何をどう言っても規制がないんですからそれで通っちゃうんです。製造物責任制度にも引っかかりません。法律に違反しているわけじゃありませんから。」
page 105

え?え?え?
国内の量産フードの2倍~7倍もする輸入フードって、安全なフードじゃなかったの?

しかし、坂本氏は、メーカー側のこういう意見を書くことも忘れない。

「日本のような高温多湿の環境で、冷蔵庫にも入れないで長時間おいておけば、駄目になってしまうのは当然でしょう。だから(酸化防止剤を)入れてあるんです。ハッキリ言って入れてない方がずっと危険なんです。」
page 108

しかし、その酸化防止剤が犬の健康にどのような影響を及ぼすかについては、どのメーカーも決して言わないという。
言わないというより、分からないと言った方が事実に近いらしい。

では、手作り食にすべきなのか?
体重が30キロもあるような、たとえば今流行のゴールデン・レトリーバー。
こんな犬を満足させるだけの手作り食を毎日作れる家庭がどれだけある?
さらに、一口に手作り食と言っても、生肉が最良という人、表面だけをさっと焼いて雑菌を落とせばよいという人、しっかり火を通さないと危険だという人、それぞれ主張があって、どうしてよいのかわからない。
コストだってペットフードより高く付く。

この章では、実に詳しく、ペットフードの事を調べて書いてある。
とても私のこんな書評では書ききれないから、ぜひご自分で読んで欲しい。

第3章は、「ブリーディングが病気をつくる」と題して、ブリーダーとブリーディングの問題点について。

本来あるべきブリーダーの姿。
良いブリーダーの見分け方。

ペットフードの章では、書く方も読む方も「じゃあどうすればよいの?」状態だったが、この章では、誰の意見も一致している。

ブリーディングとは、高い理想と信念を持ち、一生勉強しつづける人間だけがすべきことであること。
ブリーダー業だけで生計はたてられない。もし生計を立てているというなら、その時点で疑うべき。
扱う犬種をころころ変えるような、また多数の種類を同時に飼っているような者は、ブリーダーではなくてパピーミル(繁殖屋)。
本物のブリーダーは生後91日以上で譲渡する。
大切なのは、犬をどれだけ理解し、どれだけ手をかけてあげてるか、ということ。
などなど。

そうだそうだと頷きつつも、・・・これまた私の悪い癖かもしれないが、だんだん寂しくなってくる。
良い犬、悪い犬・・・
どの犬も生きた命だよ?
この犬は良いから繁殖させる、この犬は悪いから子孫を残さない、とか言われても、その選別の基準が私にはどうもよく分からない。
なるべく性格が良い犬を選んで繁殖に使う、これは分かる。
性格が良い方が可愛がられ、犬が幸せになれるからね。
でも、前足に白斑がひとつあるとか無いとか、そんなこと、犬の良さと何の関係があるの?

どうして”愛犬家”って、犬の見た目にこれほどこだわるんだろう?

ボランティア団体 wan lifeさん の 活動日誌ブログ で、最近(=注:2006年当時)立て続けにこんな内容の書き込みがあった。

(1)雑種犬数十頭が飼育放棄された。いくつかのボランティア団体に支援要請したが、手一杯で無理だと断られた。
しかしそのわずか3日後、純血種「ブリーダー」が崩壊し多数の純血犬が放棄されると、3日前に手一杯だと断った団体が一斉に純血犬を引き取った。

(2)ある「ブリーダー」が事故で入院した。その「ブリーダー」は一人暮らし、なのに、飼っていた犬は約10品種計100頭余!
小型犬ばかりとはいえ一人で100頭の面倒を見ていたというのだからあきれる。
しかも、入院して犬の世話ができなくなったとなると、ご親切なお仲間の「ブリーダー」達が一部の犬たちを選んで引き取ってくれた。
「ブリーダー」たちが選ばなかった53頭はどれも、目も背けたくなるような状態の子ばかり、皮膚病で全身禿げている子、歯もない子、瀕死の子、その子達は全員殺される予定だったという。

(注:(1)と(2)は文章も括弧も管理人が書いたものです。wan lifeさんの文章を写したものではありません。)

第4章は、問題行動について。
しつけの大事さ、正しいしつけ方、など。

ここでも、「生後60日以内の子犬を平気でどんどん売ってしまう」ことがまず第一の問題として上げられている。

「生後30日から60日までの間が、犬にとってどんなに大切な時期か。社会化期の中の感受期といういちばん大切な時期なんです。その時期に母犬や兄弟たちから離して売ってしまう。そこにいちばんの問題があって、それさえ解決すれば問題行動は激減します。」
page 212

この章で書かれていることは、猫では問題とはならないことも多い。
が、動物と暮らす飼い主の基本姿勢として学ぶべき指摘は随所にある。

全体的に、とても良くまとめられた本だと思う。
犬のことしか書いていないけれど、猫派の方もぜひ読んで、問題意識を持って欲しい。

(2006.8.20)

坂本徹也『ペットの命を守る』

坂本徹也『ペットの命を守る』

坂本徹也

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

『ペットの命を守る』
いまからでも遅くない 病魔からこう救え!

  • 著:坂本徹也(さかもと てつや)
  • 出版社:ハート出版
  • 発行:平成14年(2002年)
  • NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
  • ISBN:489295490X 9784892954900
  • 283ページ
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:犬

目次(抜粋)

  • はじめに
  • 1章 あなたのペットは病んでいる?
    • 日本の環境が病気をつくる
    • おなかをめぐる病気
    • その他
  • 2章 いったい何を食べさせればいいの?
    • ペットフードは大丈夫?
    • ペットフードが病気をつくる?
    • その他
  • 3章 ブリーディングが病気をつくる
    • はじめから病気
    • いい犬はどうつくる?
    • その他
  • 4章 問題行動はペットのSOS
    • 問題行動を生むペットの流通
    • 病気ではないけど病気
    • その他
  • おわりに

著者について

坂本徹也(さかもと てつや)

兵庫県出身。ライター、ペットジャーナリスト。早稲田大学第一文学部社会学科卒業。雑誌の編集部を皮切りに、企業PR誌の編集、広告物の制作を行う企画会社に勤務。88年に独立して、企画集団パイクを設立。ビジネス誌、転職・独立情報誌の立ち上げおよび執筆にかかわる。犬歴9年。ミニチュアシュナウザー2頭を飼ったことから、ペットビジネスの現状に疑問を抱きはじめる。ヒトと動物の関係学会会員。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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