野澤謙『ネコの毛並み』
副題『毛色多型と分布』。
ネコには様々な毛色がある。うちにいる猫たちだけをとっても、茶トラ+白、シルバータービー+白、三毛、黒白と多彩だ。
それらの毛色はすべて遺伝子で決まる。
もう少し正確に言えば、10種類の遺伝子の様々な組み合わせで決まる。10種類の遺伝子の中にはそれぞれ優性遺伝子と劣性遺伝子の2つがあり、さらに遺伝子によってはそれが3対立遺伝子もあったりする。ネコ達の色模様が複雑なわけである。
著者は全国を歩き回り、見かけた猫たちの毛色遺伝子型を片っ端から書き留めた。その膨大な研究成果をまとめたのがこの本である。日本で発行されたネコ毛色遺伝子に関する本の中では、一番包括的で詳しい本であることは間違いないだろう。
遺伝のしくみについての説明は何もないので、ある程度の基礎知識は必要だが、高校の生物で習う程度の知識があれば十分理解できるとおもう。遺伝学は全然わからないという人は、まずローラ・グールド著「三毛猫の遺伝子」をお読みになってからこの本を読まれることを勧める。「三毛猫の遺伝子」は遺伝学を初歩から手取り足取り教えてくれる。
各都道府県の、たとえば白猫比率とか、茶が見られる(茶トラ/三毛など)比率とか、尾曲がりネコの割合などの各調査結果は、非常に興味深く、特に面白かった。
表によれば京都府他近畿各県の茶比率は4分の1を少し超える程度なのに、うちにいる8ニャンのうち6ニャンまで茶がはいっているのはやけに多いな、とか、尾曲がり率は8ニャン中3ニャン(トロ、ビク、チャトラン)で、厳密に言えば一見長尾のみけも触ると骨にキンクがあるから尾曲がりの遺伝子が多分はいっていて、そうすると8ニャン中4ニャンということになり、これもこの表より多めだとか、そのように自分の猫たちに照らし合わせて見ると面白い。さらに、掲示板常連さんの猫さん達の遺伝子型まで考え出すと、興味は尽きない。
ひとつだけ気になったのは、野澤氏は、ネコはすべて外出自由で、人による繁殖管理はごく一部の血統書ネコを除き全く行われず、今でも自然な繁殖が自由に行われているという強い思いこみをお持ちの方であるらしいこと。
野澤氏が調査を始められたのは、本によれば20年前、つまり今(2005年)から約30年前ということになり、30年前ならあるいはそれはほぼ正しかったかも知れない。しかし、この30年で人々の意識は大きく変わった。全国的なアンケート調査によれば不妊手術率は7割を超え、完全室内飼いが主流となり、その一方で、種々雑多な品種が海外からどんどん輸入されている。もはや、ネコたちは自然な交配・繁殖を自由に楽しんでいるとは、とても言えないだろう。
ネコの毛並みというのは、血液型等と違い外見だけで判断できる為、遺伝子の調査対象としてはうってつけだそうだ。またイエネコは必ず人について移動するので、毛色分布がわかればヒトの移動史の解明にも役立つとかで、外国ではけっこう調査されているとか。
野澤氏がこの本を出版されてもう10年たつ。今なら携帯電話の写真1枚で遺伝子型の判別は可能だ。誰かまた改めて、全国調査してくれないだろうか。ペットブームでネコの毛色分布がどう変わったか是非知りたい。若くて野心家の研究者諸君、是非是非よろしくお願いします。
(2005.9.2)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ネコの毛並み』
毛色多型と分布
- 著:野澤謙(のざわ けん)
- 出版社:裳華堂ポピュラーサイエンス
- 発行:1996年
- NDC:489.53(哺乳類・ネコ科)
- ISBN:4785386339 9784785386337
- 157ページ
- モノクロ
- 登場ニャン物:多数
- 登場動物:-
目次(抜粋)
1章 飼いネコと野良ネコ
2章 家畜ネコの生いたち
3章 ネコの毛色の遺伝
4章 ネコの集団遺伝学
5章 絵に描かれたネコ
6章 日本ネコの毛色の遺伝子頻度
7章 日本ネコの繁殖構造―ヒト、サルとの比較
8章 日本ネコにおける形質頻度の地域差
9章 アジアのネコ・世界のネコ