ハベル『猫が小さくなった理由(わけ)』
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飼い猫の脳は野生時代のままではない!
遺伝子工学は今や最流行の学問であり花形産業である。
が、遺伝子というものの存在すら知らなかった昔から、人間は身の回りの生物たちを遺伝子操作し続けてきた。
著者は、トウモロコシ、蚕、猫、リンゴの4種の生物にスポットを当てて、その遺伝子操作の歴史を探っている。
いずれも人間の助けなしには種としての存続が不可能となってしまった生物たちだ。
トウモロコシの実は、ご存じの通り、鞘で堅く包まれていて、自力では種を地面に落とすことさえ出来ない。
蚕の幼虫はあまりにひ弱になったので、食べ物を見つける本能を失い、人が餌を与えない限り飢え死にするまでじっと待っている。
現在スーパーで並んでいるリンゴはすべて人工種で且つクローンだ。自然に任せたらたちまち生食可能な甘いリンゴはほとんど姿を消すだろう。
この本では触れられていないけれど、日本の桜代表ソメイヨシノもクローンである。
日本中、否、世界中に何万本あるか分からないソメイヨシノ、あれが全部たった1本の木に由来する。
「ソメイヨシノの種(タネ)」というものは存在しない。
桜の仲間は自家不和合性(1本の木に咲いた花同士は受粉しないこと)なので、クローン同士は受粉せず、だから「ソメイヨシノの種」もできないのだ。
他種の桜とは受粉可能だが、その種から育った木は純ソメイヨシノではなく交配種である。
さて、そして、猫。
イエネコは紀元前2世紀半ばには、リビアヤマネコとは遺伝的に全く別の動物になっていたという。
エジプトでミイラにされた猫を調べたところ、リビアヤマネコにくらべ体が小さく、頭蓋はそれ以上に小さくなり、大脳の新皮質の皺が減少していた。
つまり、「音や動きの変化を感じ取る脳の中心部が、イエネコの場合、祖先のヤマネコより小さいこと」が判明した。
また、スペインヤマネコとイエネコを比較した研究では、ヤマネコ並みの大きさのイエネコを選んだにもかかわらず、「脳の中で視覚をつかさどる部分では、スペインのヤマネコより30パーセントないし35パーセント、ニューロンが少ないこと」が分かった。
さらに、副腎の動きも鈍くなり、アドレナリンやノルアドレナリンの分泌に影響が出た。
「この二つのホルモンは、反応の早さや危険を認識する力に影響をおよぼし」つまりヤマネコの敏捷性を失う一方で、危険に対して鈍感になったのだ。
それだけではない。
性格は、より人なつっこくて大人しい飼いやすいネコへ、そして、模様はより綺麗で、その上、シッポが無かったり耳が折れ曲がったりと「鑑賞に耐えられる」ネコへと、どんどん変えられていった。
その結果の産物が、今の猫達だ。外見は似ていても、遺伝工学的には祖先のリビアヤマネコとかけはなれた動物なのである。
しばしば「猫は自然のままが一番幸せだ」という主張を耳にする。
その人達によれば、飼い猫は不幸、完全室内飼いなんてもってのほか、野良猫こそ幸せだという。特に男性にそう主張する人が多いような気がする。
が、果たしてそうだろうか?
見方を変えれば、ヒトだって少し前までは狩猟と採集で生活していたのだ。
「猫は自然のままが一番幸せ」と主張する人は、「ヒトも自然のままが一番幸せ」と主張しなければ論旨が矛盾することになる。
即ち、電気もガスも水道もないところで、テレビもスマホもパソコンも自動車もエアコンも冷蔵庫も何もない生活こそが、ヒトにとっては「一番幸せ」。
そうなんですか?
「猫は自然のままが良い派」の方は、ご自身も是非是非!実践してくださいね。
私?
もちろん、謹んで御免被ります。
畑を耕作して半自給自足な生活をしている私ではありますが、「自然のままそのまんま」はイヤです。
(2004.3.31)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫が小さくなった理由(わけ)』
- 著:スー・ハベル Sue Hubbell
- 訳:矢沢聖子(やざわ せいこ)
- 出版社:東京書籍
- 発行:2003年
- NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
- ISBN:448779806X 9784487798063
- 238ページ
- 原書:”Shrinking the Cat” c2001
- 登場ニャン物:猫達、リビアヤマネコ、ライオン、他
- 登場動物:犬、蚕、鼠、他
目次(抜粋)
- はじめに
- 第1章 人間と愛犬タッツイとトウモロコシ
- 第2章 マルチコーリス・マニアと蚕、そして、世界初の幹線路
- 第3章 ライオンとネコ、小さくなった猫とネズミ
- 第4章 天上の山々と放牧地のリンゴ
- 後記
- 付記
- 謝辞
- 索引
- 訳者あとがき