大石直紀『ビストロ青猫謎解きレシピ:魔界編』
古都・京都には”魔界”スポットが数多くあるが、・・・。
辻村凪子の夫が突然行方不明になって3年。夫は新聞記者だった。凪子は静岡の実家にも戻らず、京都御所近くのビストロ『青猫』で働きながら、夫を待ち続けている。いつか夫は必ず帰ってくると信じて。
ビストロ『青猫』は猫カフェとかではなく、萩原朔太郎の詩集からその名をとったもの。マスターと凪子の二人でやっている小さなお店である。ときどき大学生の準平や中学生の環が手伝う。環はロシアンブルーを飼っていて、環がビストロに来るときはいつも猫のターニャも一緒だ。
ビストロ『青猫』はケータリングも行っていた。その日も、凪子は準平とケータリング先の初老夫婦の家を訪問。客の一人に、奇抜な恰好をした女性霊能力者がいたことに驚く。黒い噂の人物だ。しかもその「桂喜美江(キミーK)」は、翌日、死体で見つかった。胃の中からでてきたのは当然ながら、凪子がケータリングで提供した料理のはず・・・だが、凪子はレシピが微妙に違うことに気づく。
この事件が発端だった。奇妙で恐ろしい事件が、凪子の周囲で、つぎつぎと起こる・・・!
* * *
『青猫』という名前や表紙の猫の絵に、てっきり猫が活躍するミステリーかと勘違いしてしまいましたが、結論から申し上げますと、猫のターニャは何もしません。いえ、厳密には、ある重要なヒントに導いてはくれますが、他の多くの猫ミステリーと違い、そこには”猫探偵”としての要素はなにも認められません。ターニャがそこに行ったのは、あくまで偶然。そもそも、ターニャの出番は少なく、出てきてもごく短く、実質何もしていないのと同じです。
ですので、猫ミステリーとしてはお勧めできませんが、通常のミステリーとしては、なかなか面白かったです。
主人公が30代の素人女性、アシスタント的立場にいるのは大学生、という設定に、最初は軽いコージーミステリーかと読み始めたのですが、ストーリーが進むほどに重い要素、黒々とした面があらわれてきて、人間関係もどんどん複雑に広がっていきます。その分登場人物も多めで、最後の方は「あれ、誰だっけ?」なんてことも。
魔界にパワースポット、呪術に祈り、怪しい霊能力者に怪しすぎる宗教、どくろに儀式、最後に中国マフィアも少々。明るく始まった出だしがじわじわと沈んでいく感じ。まったく同じストーリーを、文章を変えればハードボイルドにもなるかな、ってくらいの筋書です。暴力描写があまり無い(ふつうの推理小説程度)ので、ハードボイルド小説ではないんですけれどね。
猫目当てではなく、ふつうのミステリーとしてお読みください。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
著者について
大石直紀(おおいし なおき)
1998年『パレスチナから来た少女』で日本ミステリー文学大賞新人賞、2003年『テロリストが夢見た桜』で小学館文庫小説賞、06年『オブリギオン~忘却』で横溝正史ミステリ大賞テレビ東京賞を受賞。著書に『サンチャゴに降る雨』『グラウンドキーパー狂詩曲』、ほか。 (著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『ビストロ青猫謎解きレシピ』
魔界編
- 著:大石直紀(おおいし なおき)
- 出版社:j株式会社小学館 小学館文庫
- 発行:2015年
- 初出:静岡新聞(夕刊)2013年7月~2014年9月の同名作品を改稿
- NDC:913.6(日本文学)長編小説
- ISBN:9784094061109
- 507ページ
- 登場ニャン物:ターニャ
- 登場動物:-