長田弘『ねこに未来はない』
新婚夫婦がまず最初にしたことは。
ねこが好きではなかった “ぼく” が、ある人を好きになって結婚し、そして、「結婚していっとう最初の朝のいっとう最初の食事のまえに」ういういしい新妻から発せられたいっとう最初の言葉は、
「ねえ、わたしたち、なによりもまず、ねこを飼いましょうね」
子猫はすぐにやってきた。そのかわいらしさは例えようもなく、猫好きだった奥さんはもちろん “ぼく” もたちまち魂を奪われてしまう。
が、借間住まいの悲しさで、その子猫はわずか1ヶ月で行方不明になってしまう。
貧乏な “ぼく”達夫婦は、ねこ一匹飼えない暮らしなんか耐えられないと、無理をして “庭付きの家” を借り、またねこと生活を始めるが・・・
詩のような、また童話のような、美しくも切ない短編です。
ユニークな比喩を多用した文章は、独特な雰囲気を持っています。
この小説で一番共感を覚えたのは次のくだり。
一度でもねこを飼った経験のあるひとなら、ねこの不在がどんなにおそるべく惨めな虚ろさを飼い主の想像力にもたらすものであるか、きっとおわかりだろうとおもいます。それは、淋しいという気もちとも微妙にしかしはっきりとちがっています。もっとつよい感情の飢えともいうべきもの。
表題の「ねこに未来はない」の他、「ねこ踏んじゃった」と「わが友マーマレード・ジム」の2編が収容されています。
どの作品も、宝石のように、あるいは猫の目のように、キラキラと輝き続ける、猫名作です。
(2002.10.20)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ねこに未来はない』
- 著:長田弘(おさだ ひろし)
- 訳:姓名(ひらがな)
- 出版社:角川書店 角川文庫
- 発行:昭和50年(1975年)
- NDC: 913.6(日本文学)短篇小説
- ISBN:4041409020 9784041409022
- 198ページ
- 登場ニャン物:チイ、タマ吉、クロ、クマ、ジジ (以上「ねこに未来はない」);サブロー(「ねこ踏んじゃった」);マーマレード・ジム、ゴミ箱のダン (以上「わが友マーマレード・ジム」)
- 登場動物: -
目次(抜粋)
- ねこに未来はない
- ねこ踏んじゃった
- わが友マーマレード・ジム
- *解説 なだいなだ