内田百閒『ノラや』

内田百閒『ノラや』

 

地位も名声もある男が、ボロボロ泣き続ける・・・。

ペットロスの総本山のような本です。

愛する者を失った経験の無い人はきっと笑うでしょう。たかが野良上がりの猫の子一匹じゃないか、それがいなくなったくらいで、大の男がこんなにも乱れ、悶え、人前で泣き続けるなんてみっともないと。

経験のある人は、もうたまらないでしょう。一緒になってボロボロ泣いてしまうでしょう。愛するノラがいなくなって、文字通り気が狂ったようになってしまった百閒先生に、とても親近感を覚えるでしょう。

行方不明のノラを探すために、先生は総計2万枚に及ぶチラシを配り、繰り返し新聞広告を出し、仕舞いには「日本語の読めない外国人の家に保護されているのかも」と、英字ポスター500枚までつくって、必死に探し続けるのです。70歳を越える高齢のため、自ら出歩いて探すことが出来ないもどかしさ。食べものは何も喉を通らない、人前はばからずボロボロ涙がこぼれてしまう。憔悴しきった先生のために奔走する周囲の人達。

アニマルライトとかペットロスとかの概念すらなかった時代に、猫をこれほどまでに愛し猫のためにこんなに必死になってくれた人々がいたことに深い感動を覚えます。

(2002.4.10)

内田百閒『ノラや』

内田百閒『ノラや』裏表紙

内田百閒『ノラや』

内田百閒

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『ノラや』

  • 著:内田百閒(うちだ ひゃっけん)
  • 出版社:中央公論新社 中公文庫
  • 発行:1980年
  • NDC: 914.6(日本文学)随筆、エッセイ
  • ISBN:4480037691
  • 321ページ
  • 登場ニャン物:ノラ、クルツ
  • 登場動物: -

 

 

著者について

内田百閒 (うちだ ひゃっけん)

1889-1971年。大賞3年、東京帝大独文科を卒業。この間、漱石の知遇を受け、門下の竜之介、草平らを識る。以後、陸軍士官学校、海軍機関学校、法政大学などで教鞭をとる。不気味な幻想を描く第一創作集『冥途』、『旅順入場式』、『贋作吾輩は猫である』などの小説、独自のユーモアあふれる随筆『百鬼園日記帖』など多くの著作がある。

(著者プロフィールは本著等からの抜粋です。)


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内田百閒『ノラや』” に対して2件のコメントがあります。

  1. yukiyo より:

    涙、涙、涙なしでは読めません。
    お薦め度マックスな作品だと思います。
    ノラがいなくなった寂しさ心細さを
    猫好き読者が今まさに体験してる気持ちになってしまう。
    読んでて「もうこれだけ心配してるんだから
    ノラが帰って来る結末にしてあげて!」と叫びたくなりました(汗)

    これを読んで内田百閒さんが大好きになりました。
    黒沢監督の映画「まぁだだよ」でもノラの事が表現されてましたね。
    縁側でノラの帰りを待つ百閒先生の後ろ立ち姿が印象的でした。

    1. nekohon より:

      小説や映画の世界なら、これだけ探し求めた猫、必ず元気に戻ってくるだろうに。
      切ないですよね。
      あの時代は、「大の男が猫なんかに」って風潮もきっと強かったのではないかと思います。
      「内田百閒」の名は、愛猫家界において、永遠に不滅です!

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