ピリンチ『猫たちの聖夜』
連続殺猫事件の謎を、猫達が解く!
アキフ・ピリンチはトルコ生まれ。ドイツに住みドイツ語で小説を書いている。
この「猫たちの聖夜」は1989年にドイツ・ミステリ大賞を受賞した作品で、アニメーション化もされたそうだ(ぜひ見てみたい)。他に、この本の続編「猫たちの森」や、猫研究書「猫のしくみ」などの著書がある。
この本の主人公、フランシスは好奇心に満ちあふれた猫だ。きわめて優れた頭脳と、猫らしからぬ(?)行動力があり、さらに熱い情熱と冷めた観察眼という背反する能力も併せ持っている。物語の後半ではパソコン技術もマスターしてしまう。超天才猫なのである。
さて、フランシスは飼い主のグスタフ(冴えない独身男で作家)とあるボロ家に引っ越してきた。引っ越し当日に最初にフランシスが見た物は、むごたらしく殺害された「死体」。しかも連続殺人、否、連続殺猫事件だという。しかも犯罪は続いていた。フランシスがほのかに思いを寄せた雌猫も殺されてしまう。
フランシスはじっとしてはいられない。するどく推理しながら、友達の青髭や、もう1匹の天才猫パスカルと共に、この事件解明に乗り出す。単なる連続殺猫ではなかった。その背後にはとんでもないプロジェクトと、キチガイ科学者と、哀れな猫族と、そして、恐ろしい犯罪者がいた・・・
残酷な動物実験の話が続いたりして、猫好きにとってはかなりキツイ内容もある。しかしピリンチ氏の本質は、単なる猫好きどころか、猫族崇拝者といっても良いくらいの作家だ。ハリウッドのアクション映画並みに息もつかせない展開ながら、読み終われば、その背後に隠されたピリンチ氏の悲鳴のようなメッセージが読み取れる。
この本は文句なしに面白い。猫好きも猫嫌いも、夢中で読み終えてしまうだろう。だが、どうか裏のメッセージまで読み取って欲しい。一見荒唐無稽な夢物語のような話だが、動物実験の話などは現実に今でも世界中で行われていることそのままなのだ。もちろん日本国を含めて。
(2005.11.7)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫たちの聖夜』
- 著:アキフ・ピリンチ(Akif Pirincchi)
- 訳:池田香代子(いけだ かよこ)
- 出版社: 早川書房 ハヤカワ文庫
- 発行: 1997年
- NDC : 943 ドイツ文学:小説
- ISBN : 4150408564 9784150408565
- 350ページ
- 原書 : Felidae; c1989
- 登場ニャン物 : フランシス、青髭、パスカル、クラウダンドゥス、コング、ヘルマン&ヘルマン、フェリシタス、ヨーカー、ディープ・パープル、イェザヤ、ペペリーネ、ノゼンプテク、他
- 登場動物 : -