佐藤友哉『デンデラ』

デンデラ

 

姥捨て山の、壮絶すぎる老婆たち。

斎藤カユは、当たり前のように『お山』に捨てられた。なぜなら、斎藤カユの育った『村』では、

七十をむかえた老人は、誰であろうとどのような事情を抱えていようと、年明け早々の冬に一人ずつ『お山参り』をするのが『村』の決まり事でした。必ずやらねばならぬことでした。
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斎藤カユを背負ってきたのは、他のほとんどの前例と同じく、実の息子だった。しかし『村』では老人を山に捨てることがあまりに当たり前だったので、親子はそれを悲劇とさえ思わなかった。

山に捨てられた斎藤カユは、むしろ安堵し充実していた。これでやっと極楽浄土に行けると信じていたからだ。

山できれいに死んだ者だけが、極楽浄土を許される。

そう心から信じ切って、何も考えず、悲しみも苦しみも悔しみも何も感じず、空っぽでただ祈っているうちに、斎藤カユの体は雪に埋もれ、冷え切って、やがて限界に達した。

 

・・・

 

はずだった。

なのに、目覚めた。『デンデラ』で。

『お山』で死んだはずの老婆たちは、生きていた。『村』とは反対側の山の斜面に、粗末な集落をつくり、生き延びていたのだ。

斎藤カユは混乱する。生に執着する老婆たちを醜いと感じる。生き延びてしまったことで極楽浄土への道を断たれた自分を恥ずかしいと思う。

『デンデラ』に連れてこられたのは、女だけだった。男たちはそのまま、『お山』に捨て置かれた。なぜなら、女たちはだれもが、男たちを恨んでいたからだ。村での女の地位は低かった。男たちは、男だというだけで、威張っていた。許せなかった。

そして何より、自分達を捨てた『村』そのものを憎んでいた。

『デンデラ』を作ったのは三ツ屋メイ、もう30年も昔に捨てられた老婆だ。つまりもう100歳になっていた。60代も少しいたが、これは、『村』が飢饉の年は70歳前でも捨てられるからで、『デンデラ』の平均年齢は80歳超。新人・斎藤カユの70歳なんてまだ若造だ。

『デンデラ』は、『村』より、さらにさらに貧しかった。暮らしも、さらにさらに厳しかった。老婆たちは、木槍で野兎を追い、石ナイフで皮を剥いだ。壁は薄っぺらで、屋根は雨漏りがした。常に寒く、食料は全然足らなかった。

それだけでも極限状態に近いのに、さらに災難が降りかかる。巨大な羆が村を襲うのだ。正体不明の流行り病にも繰り返し襲われるのだ。しかも老婆同士、派閥を作って対立していた。

壮絶すぎる修羅場の中、老婆たちはつぎつぎと殺され、あるいは病死していく。最初は50人もいた老婆たちのうち、最後まで生き残ったのは斎藤カユを含めわずか6名。

斎藤カユは、巨大羆に、最後の闘いを挑む決心をする。

デンデラ

老婆たちの名簿

牧歌的な「です・ます調」の文体が、壮絶で無残な状況を描写する。あまりにアンバランスで、最初は戸惑うくらいだ。けれど、読み進めるうちにわかってくる。この文体でなければダメだったのだ。
おどろおどろしい場面を、おどろおどろしい文章で綴ったのでは、作為が見えすぎて、かえってアンリアル。のびやかで明るい「です・ます調」だからこそ、これほどに生々しく現実的に感じられるのだ。よくよく考えれば、現実ではありえないことが多いのだけど・・・たとえば、100歳を筆頭に90代80代の老婆たちが、木槍1本を武器に、羆を追って雪深い山を登るとか。鍛えられた日本軍でさえ、冬の八甲田山を越えられなかったのだ。老婆が北海道の冬山で大活躍できるはずがない。・・・ないのだけど、なぜか、読んでいる間はほとんど疑問を感じる余裕すら、ないのである。それほどに引き込まれる。夢中になってしまう。

なんてタフな老婆たちだ。

体力だけでない。頭も、気力も、たいしたものだ。おのれの主義や信念について、滔々と議論するところなど、生意気な難関校女子大生みたいだ。そして、これほど生に執着しながら、と同時に、おどろくほど死に無頓着でもあり。

とにかく、すさまじいです。姥捨てされるような時代に生きていなくて良かったです。

また、老婆たちを襲う羆(作中では羆の漢字に「くま」とルビを振っている)の事情や心理も、ちゃんと描いているところが良い。西洋人がつくるパニックホラー映画は、猛獣は無意味に獰猛なだけで、うすっぺらい印象をまぬがれない。『デンデラ』を襲う羆には「赤背」という名前もあり、子熊連れで、老婆たち以上に飢えていた。これなら襲うのも仕方ない、という気持ちになる。

この作品は映画化もされていますね。私はまだ見ていないのだが、監督・脚本は天願大介、キャストは浅丘ルリ子、倍賞美津子等と、そうそうたる顔ぶれで面白そう。

本と映画、ぜひ合わせてどうぞ。

(2017年9月26日)

追記:映画の「デンデラ」見ました。レビューはこちら

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『デンデラ』

  • 著:佐藤友哉(さとう ゆうや)
  • 出版社 : 新潮社 新潮文庫
  • 発行年 : 2009年5月1日
  • NDC : 913.6 (日本文学・近代小説) 長編小説
  • ISBN : 9784101345536
  • 登場ニャン物 : ―
  • 登場動物 : 赤背、その子ども(以上、クマ(羆))

 

目次(抜粋)

  • 第一部
    • 第一章 往生際
    • 第二章 袋小路
    • その他
  • 第二部
    • 第七章 瀬戸際
    • 第八章 不退転
    • その他
  • 解説 法月綸太郎

 

著者について

佐藤友哉(さとう ゆうや)

1980(賞和55年)、北海道生まれ。2001(平成13)年、『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』でメフィスト賞を受賞し、作家デビュー。’07年、『1000の小説とバックベアード』で三島由紀夫賞を受賞する。若い世代を中心に、多くの支持を集めている。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

デンデラ

デンデラカバー


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