谷崎潤一郎『猫と庄造と二人のおんな』
純文学の最高峰。猫と男と女たちの三角関係。
谷崎潤一郎といえば猫好きで有名な文豪だ。この作品はそんな文豪の猫本の珠玉であると同時に、ネコを猫として描いた(つまり擬人化せずに)日本文学の最高峰の一つだと思う。
登場人/ニャン物は、題名の通り、ペルシャ猫のリリーと、庄造と、庄造を巡る二人のおんな・品子と福子である。
谷崎文学といえば、おんな達の悪魔的なまでの妖艶さ(今風に言えば魔性の女?)が特色と言って良いくらいだが、この本に出てくるおんな達は全然艶めかしくない。品子も福子も、平凡で意地っ張りなだけの、つまらないおんな達だ。また庄造も、他の谷崎文学の多くの男達同様、意気地無しでにえきらない男である。
つまり登場人物には色気も魅力もない。
にもかかわらず、谷崎らしい色香が全面に漂っているのは、ひとえにペルシア猫リリーの存在のお陰だろう。
・・・リリーは、俗欲にまみれた人間共を遙か下に見下ろしながら、ひとり超然と高みにいる。その美しさ、純真さ、悟りの深さは、人間輩にはまったく真似ができない。
この小説の題名が、人を差し置いて猫を筆頭に置いているのは当然といえば当然だ。どう見ても猫が一番偉いのだから。
庄造がリリーと戯れる場面など、作者自身このように愛猫と戯れていたに違いないと思われ、微笑を誘われる。ほとんどエロティックですらある。何故猫という動物はこれほど人を溺れさせてしまうのか。
ところで、私が持っている新潮文庫は昭和50年刷の超古本、たしか神田古書店街で購入したもの(学生時代はお金がなかったからねえ)。130ページ140円。それを今なお大事に持っています(笑)現在発行されている新潮文庫は172ページ432円(2017.10.5.)らしい。字の大きさとか随分違うんだろうなあ。
なお、いうまでもないと思いますが、サイト名「猫とネコとふたつの本棚」は、畏れ多くも勿体なくもこの『猫と庄造と二人のをんな』をもじらせていただいたものです。
(2002.4.10)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫と庄造と二人のおんな』
- 著:谷崎潤一郎 (たにざき じゅんいちろう)
- 出版社 :新潮社 新潮文庫
- 発行年 : 1951年
- NDC : 913.6(日本文学)小説
- ISBN : 9784101005058
- 172ページ
- 登場ニャン物 : リリー
目次(抜粋)
- 本編
- 解説(磯田光一)