田向健一『珍獣の医学』

田向健一『珍獣の医学』

 

ミーアキャット、ダマワラビー、コモンマーモセット、ズグロテンレック、ミズオオトカゲ、その他。

珍獣を診る先生と聞けば、きっとその先生の生活は、アマゾンの密林の奥まで分け入ったり、シベリアの永久凍土を横断したり、あるいはアフリカのステップでサイに追いかけられたりしているんじゃないか、なんて連想しませんか?

いいえ、日本国内での話です。

では、きっと動物園の獣医さんだ!動物園にいくと、世界中から動物達があつまっているよね~見たことも聞いたこともないような動物の診察って、きっと大変なんだろうな~

いいえ。動物園でもありません。

意外なことにも、東京は田園調布の、一見ごく普通な動物病院の院長先生です。

なのに、くるはくるは。

一般的なペット、犬・猫・ウサギ・ハムスター等に混ざって、ヤギやフェレット、ウーパールーパーなど言わずもがな、「なぜ東京でこんな動物が!?」というような外来種・珍種が、ぞくぞくと集まってきます。アリクイ、サーバルキャット、ヨウスコウワニ、リスザル、プレリードッグ、ブルーテールモニター(トカゲの一種)、その他多数。かと思えば、ちっぽけなアマガエルや、金魚すくいの金魚たちも。

田向健一『珍獣の医学』

田向健一『珍獣の医学』

これほどまでに多種多様な生き物たちを診てしまう先生、ちょっとすごすぎます。人間の医者は、やれ外科だ整形外科だ美容外科だ小児外科だと、外科だけでもいろいろ分かれているのに。

珍獣を診るということは、前例に頼れないということでもあります。しかも患畜は絶対に、症状の説明なんかしてくれません。お腹がいたいのか、頭がくらくらするのか、体がだるいのか、関節がいたいのか、喉が腫れて飲み込めないのか、寒いのか、暑いのか、その餌に飽きただけなのか。そんな動物たちを診察するなんて、真っ暗闇の中で落とし物の小さなボランを探すよりも、もっと困難なのではないかと思ってしまいます。

田向先生は、子どものころからずっと動物が好きで好きで、動物にしか興味を持ってこなかったそうです。ふつうの男の子たちが、サッカーやゲームや異性に夢中になっているときにも、先生はただひたすら動物たちを追いかけていたそうな。

だから、どんな動物でも治してあげたいのだそうです。始めてみる症例でも、初めて触る生き物でも、決して投げ出さない。その結果、たとえば画期的な「亀の甲羅開腹手術法」を考案、今や世界中で真似されるようになったとか。

カエルのツボカビ症をアジア地域で最初に発見したのも田向先生でした。カエルツボカビといえば、中南米やオーストラリアで両生類が激減したり絶滅したりして、世界中で大問題となった病気。そんな恐ろしい病気を日本国内で発見しちゃったとなれば、そりゃもう大問題なわけですが、なんと先生。病気発見と同時に治療法まで発見しちゃった!その治療法は、いまやツボカビ症治療の世界的スタンダードとなっているそうだけど、驚くべきその治療薬とは?うふふ、あなたの家にもあるかもしれない薬なんですよ☆

犬猫だけを診る獣医さんでも大変なのに、こんなに色々な動物達、よくもまあと感心するばかりです。まさにスーパードクター。

この本を底本に描かれたと思われるマンガもあります(底本だとはどこにも書いてないようなんですが・・?)。
原作:田向健一、漫画:菅徳子『院長・・・アリクイの次はカンガルーがやって着ました!』

マンガも面白いです。でも本の方がずっと情報量が多いので、私としては本の方がおすすめです。

田向健一『珍獣の医学』

田向健一『珍獣の医学』

田向健一『珍獣の医学』

田向健一『珍獣の医学』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『珍獣の医学』

  • 著:田向健一(たむかい けんいち)
  • 出版社:株式会社 扶桑社
  • 発行:2016年
  • 初出:2010年12月31日刊行『珍獣の医学』
  • NDC:645(家畜各論)
  • ISBN:9784594074210
  • 326ページ
  • カラー口絵
  • 登場ニャン物:複数
  • 登場動物:ウサギ、はりねずみ、ミーアキャット、リクカメ各種、モルモット、ワラビー、ミミズク、ジリス、カワウソ、アホロートル、カメレオン、小型サル各種、トカゲ各種、ボア、カエル各種、タランチュラ、ほか

 

目次(抜粋)

まえがき
1章 毎日が未知との闘い、「珍獣」の診療
2章 動物の診療は科学捜査に通ずる
3章 イグアナたちの卵詰まりと不妊手術
4章 命を「飼う」ということ
5章 カメの手術方法と動物の結石
6章 注意1秒、ケガ一生。多くは飼い主の不注意による
7章 なぜ、かくも食べられないものを飲み込むのか
8章 トカゲ100匹の血液検査をし、血液基準値を作成
9章 バレーボール大の犬の腫瘍から、ヘビの大腸ガンまで
10章 動物病院で使う薬のほとんどは人間用
11章 動物いろいろ、飼い主さんもいろいろ
12章「楽にしてあげたい」と思うか「助かる」と信じるか
あとがき
文庫化によせて

著者について

田向健一(たむかい けんいち)

獣医師。獣医学博士。田園調布動物病院を開業。ペットとして飼育される動物のほとんどを診察対象とする。幅広い知識を生かし一般書、専門書、論文など多数執筆。著書に『珍獣ドクターの動物よろず相談記』、『生き物と向き合う仕事』、ほか。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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