須磨一郎『本物の獣医・ニセ物の獣医』

須磨一郎『本物の獣医・ニセ物の獣医』

 

読み物としては面白いけど、お勧めできません。

須磨氏は、1966年、バベシア症発症例を発表し日本獣医師会会長賞を受賞した獣医師で、現在はKOBE愛犬病院院長。
その長い獣医体験に基づき、日本の獣医界の現状を、辛口批判したのがこの本。

この本は、漫画家青木雄二氏が、愛犬ドーベルマンを診てくれる獣医が少ないことに腹を立て、「獣医界の裏側をあばいてくれ」と須磨氏に要求したことよりはじまる。

第一章は、アンビリーバボーな獣医達をあばく。他の業種についていたのに、退職後ひからびた獣医師免許を掲げていきなり開業する年寄り獣医。検査機器に全面的に依存する若手獣医。金儲け主義の獣医。などなど。

第二章は、こまった飼い主達。

しかし、ここでは私の意見は須磨氏の意見と大いに異なる。

須磨氏は不妊手術には反対だそうだ。反対な理由は、
「自然な暮らしをさせてえな」
および
「子育てをさせたいちゅうのは親心や」
だからだという。

寝ぼけないでほしい!!

誰が、健康な我が子にメスを入れたいだろうか。誰が、かわいい我が子の赤ちゃんを見たくないだろうか。誰だって手術なんかしたくないにきまっているし、誰だって赤ちゃんはみたい。

少なくとも、私は、手術なんかしたくなかったし、ものすごく赤ちゃんを見たかった!!!

にもかかわらず、手術しなければならないという現実が日本にはあるのだ。無責任な感情論はやめてほしい。

そりゃ確かに、青木氏の愛犬のような純血ドーベルマンの世界なら、手術しないという選択もあるだろうと思う。純血ドーベルマンはドーベルマン同士でしか交配させないだろうし、その子犬も交配する前から行き先は決まっているだろう。ドーベルマンを際限なく増やして自分ですべて飼える人なんて日本にはあまりいないだろうからだ。そのため、手術という強硬手段で出産制限しなくても、飼い主の方が必死になって出産制限するから大丈夫なのだ。

しかし、須磨氏は、ドーベルマンではなく、ペットという表現を使っている。

日本にはドーベルマンだけでなく、推定1160万頭以上ものネコ達もいるんですよ(2004年度ペットフード工業界調査)。
「親心や」とその猫たちに際限なく出産させたらどうなるか。
本という場所は誰でも手にとって読めるいわば公共の場だと私は考えている。もう少し考えて責任ある発言をして欲しい。

そもそもこの獣医さん、犬に関する限りは名医なのかもしれないが、ネコについてはどうなのか?

第四章で、ネコがかかりやすい病気の説明として、

*子宮蓄膿症
ほぼ七歳以上になっても生理がある場合、排尿の時に陰部が地面に接触し、細菌に感染することがある。この細菌が血液を通じて子宮におよび、蓄膿症になる。手術を要する。
page177

と書いている。

イヌにはヒトと同じような生理があるが、ネコには定期的な生理がないことくらい、素人だって知っている。ネコは交尾の刺激がないかぎり排卵しないからだ。ネコについて書く場合、このような文章で、“発情”と書くことはあっても、“生理”という言葉はまず使わないのが普通だろう。第一章で他の獣医を辛口批判していただけに、あららと思わずにはいられない。

ところで、順番が入れ替わってしまったが、第三章は、要約すると「ペットフードは万病のもと、食べさせるな、(人間の)中高年用の食卓の残り物を与えろ」というような内容である。
ペットフードが最上とは私も思わないけれど、手作り食を勧めるなら、獣医の責任として、その栄養配分等についてもちゃんと書いて欲しかった。

まして、以下の文章には、最大限のクエスチョンマーク。

食生活について、イヌに玉ネギを与えると貧血になると誤解している飼い主が多い。どうやら、テレビでもそんなことを報じているようだが、あまり神経質になる必要はない。
そもそも、玉ネギを主食にしている家庭があるだろうか?玉ネギだけを食べる人はいないはずだ。同じように、玉ネギだけを食べるイヌもいない。
少量の玉ネギなら、食べても問題は無いのだ。安心してハンバーグや、すき焼きをあげてほしい。おかずの残りはたいへんけっこう。とにかく家族がふだん食べているものと同じものをペットにもあげるのがいい。
page204

私の掲示板に、ネコがプランターをネギを齧って死亡してしまった、くれぐれも注意してあげて、という書き込みをいただいたことがある。
たったひとさじのオニオンスープで倒れた犬が担ぎ込まれたと、獣医師の体験談で読んだこともある。
玉ネギを安心して与えろ?とても獣医師の言葉とは思えない!
それに、人間と同じ食事内容なんて、どう考えても塩分が多すぎるし、猫の体に良くない香辛料も多すぎるし、栄養素は足らない!(すき焼きの残り=醤油と砂糖と酒で煮込んだ白菜やしらたきを、本来は純肉食動物である猫に食べさせろというのか?)

安易に動物の妊娠・出産を奨励する人に対しては、私は常に辛口、どうしてもキツクなってしまう。
他にも色々言いたいことがあるけれど、きりがないのでやめておく。

なお、表紙には青木雄二氏(「ナニワ金融道」などを描いている漫画家)の名前が大きくでているが、青木氏は最初の対話にちょっと出てくるだけで、本文はほとんど須磨氏のものである。
とはいえ、大きなタイトル文字やセンセーショナルな表現を好むところなど、青木氏のマンガと通じるところはある。

(2005.8.11)

須磨一郎『本物の獣医・ニセ物の獣医』

須磨一郎『本物の獣医・ニセ物の獣医』

須磨一郎『本物の獣医・ニセ物の獣医』

須磨一郎『本物の獣医・ニセ物の獣医』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『本物の獣医・ニセ物の獣医』
いいペット病院の見分け方

  • 著:須磨一郎(すま いちろう)、青木雄二プロデュース
  • 出版社:徳間文庫
  • 発行:2002年
  • NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
  • ISBN:4198917647 9784198917647
  • 207+11ページ
  • 登場ニャン物:
  • 登場動物:

 


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須磨一郎『本物の獣医・ニセ物の獣医』

4.1

動物度

8.0/10

面白さ

4.0/10

猫好きさんへお勧め度

0.3/10

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