阿部智子『動物たちの3.11』
副題『被災地動物支援ドキュメンタリー』。
読み始めるには、ものすごく、ものすごく、勇気が要りました。
私は被災していません。あの日の前も、あの日の後も、まったく同じ、平和な日々が続いています。
こんなに平穏無事でよいのかと申し訳なくなるほど。
東北であれほどの事が起こったというのに、私の住んでいる地方には、まったく何の影響もありませんでした。
でも、だからこそ、この本を読まなければいけないと思いました。
今は読んで良かったと思います。
出だしは、とても淡々とした文章です。
元ライターとは思えないほどに、起伏の少ない、能面のような筆運びです。
事実だけが綴られています。
しかし、その「事実」は、・・・
あまりにすさまじく、恐ろしく、残酷無慈悲で、何度も「え?」と読み返してしまうほどです。
平たい文章と、強烈な現実の、ギャップの大きさ。
私がこの本を読んだのは、あの大震災から2年近くたってからでした。
しかしこの本が発行されたのは、もっと早くて、大震災から約1年後。
書かれたのはさらに早い時期でしょう。
すさまじすぎる体験は、もう、淡々と語るしかないんだ・・・。
ドラマチックな体験をドラマチックに語れるようでは、それはまだ十分にドラマチックとはいえないのです。
あまりに非現実的なまでの大参事は、すべてを押し殺して静かに語るしかないのです。
この本を読んで、そう、思い知らされました。
著者は、幼い少女のころから、かわいそうな動物たちを決して見捨てられない人でした。
成人し、地方の新聞紙などの下請けライター等をした後、「NPO法人アニマルクラブ石巻」を立ち上げます。
スナック経営でご自身の生活費とアニマルクラブの活動費を稼ぎ、寸暇を惜しんで犬猫の救済に飛び回ります。
その間に結婚・出産・離婚もします。
それだけでもすごい方だと思うのに、大震災後の活躍はまさに八面六臂。
ご自宅1階まで津波に浸かり、電気も水道も何もかも破壊され、東北の3月に、食べるものも無く、着るものも無く、泥だらけで放り出されたというのに、ほとんどの人々が、自分の命を守るだけで精いっぱいだったというのに。
著者の阿部さんは、犬猫達のため、ひたすら犬猫達のため、脇目もふらず、我が身をもかえりみず、着るものも着ず、夜も寝ず、ただただ、救助し、介助し、世話をし、闘います。
なぜそこまでできるのか。
人間業とは思えないほどのご活躍に、背筋が寒くなるほどです。
本の文体は、震災から時間がたつにつれ、どんどん息を吹き返します。
文章にプロライターらしいリズムが出始め、描写が生き生きとしはじめ、最後の方はダイナミックな鼓動さえ感じられるようになります。
その鼓動は、生きている鼓動でもあります。
あの大地震、あの大津波を乗り越えて、生き残った強さ。
何もかも失われたマイナスの状況から、強引なまでに逞しく、立ち上がっていく美しさ。
そんな方ですから、一番最後の阿部さんのメッセージには、私のような人間はうちのめされてしまうのです。
なげくだけでは形にならないよ。かわいそうと思うなら助けなきゃ!
page 227
ああ、私は何をしたというのだろう!
何もしていない!
どうか、お読みください。
動物たちの被災は終わっていません。
そして、福島には、警戒区域内に残された動物たちが今もなお、毎日被曝しながら生きています。
(2013.3.9.)
*アニマルクラブは里親様・ボランティア・支援金等を必要としています。
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※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『動物たちの3.11』
被災地動物支援ドキュメンタリー
- 著:阿部智子(あべ ともこ)
- 訳:姓名(ひらがな)
- 出版社:角川グループパブリッシング
- 発行:2012年4月
- NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)ドキュメンタリー
- ISBN:9784047279483
- 227ページ
- モノクロ
- 登場ニャン物:団蔵、クララ、千代豆、その他多数
- 登場動物:多数の犬たち、他
目次(抜粋)
はじめに
1.その日・・・・・
2.さあ、動かねば
3.扉を開けてくれた人たち
4.待ったなしの現実
5.被災をくぐり抜けた命と抜け出せなかった命
6.紙一重の命
7.なぜ動物なの?
8.助け舟と道標
9.福島の動物たち
10.悲喜こもごも
おわりに