ドゥハッス『猫、この知られざるもの』
猫は知的能力発達の可能性を一生の間保ち続ける例外的な動物!?
*猫の知的能力については『16章 猫の睡眠』(p.145~)をお読みください。
著者はペットの行動学専門家。
欧州行動問題獣医学会の総裁として国際的にも有名な獣医師。
さすがそのような経歴の持ち主だけあって、非常にわかりやすく、猫と暮らす人には是非読んでほしいと思われる内容だ。
とくに第1章~第5章(=猫の社交性や縄張りに関する章)、および、第9章~第16章(=猫の心身の発達・生育に関する章)などは、じっくり読んでしっかり理解してほしい。
猫はとかく誤解されやすい動物らしい。
猫と一緒に暮らしている人でさえ、猫の気持ちを全然理解していない人がけっこう多い。
猫サイトの掲示板を読んでいると、時々「え?」というような書き込みを見つけるが、この本を読んで、どうして猫がそのように行動するのか理解すれば、多くの疑問は解消するだろう。
また、日本のペット業界では普通に行われていることだが、あまりに幼い子猫を、親兄弟から引き離し、狭いケージに押し込めて店頭の人混みの中で展示販売し、何も知らない人に売りさばくという行為が、どれほど猫の健全な精神的発育を妨げているかということもわかるだろう。
この本の特徴は、きわめて冷静で科学的な目で書かれた上記各章の間に、非科学的と批判されかねないような内容の章も混在しているということだ。
「第19章 幽霊になった猫」など。
著者は後書きでこう書いている。
格式を重んじる行動学者の興味深いが狭隘な見解を補って、超心理学的な側面をとりあげ、また猫に意識と道徳性をも与えようとするのが、本書の意図するところなのです。
page 244
超心理学的な記述があるからといって、著者の猫にたいする知識を疑ってはいけない。
むしろ、それだけ深く猫に感情移入しているからこそ見えてくる猫の科学的側面も多いのだ。
猫という動物には、あきらかに深く豊かな精神活動があり、それがある以上、外から見ただけの単純な行動科学では理解できない部分が多い。
著者くらい猫に‘はまって’しまわないと、猫を本当に理解することはできないのだろう。
私は、この本は、たいそう面白いと思った。おすすめ。
(2004.06.22)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫、この知られざるもの』
心理と神秘
- 著:ジョエル・ドゥハッス(Joel Dehasse)
- 訳:塚田導晴(つかだ みちはる)
- 出版社:中央公論新社 中公文庫
- 発行:2002年
- NDC: 645.6(畜産業・家畜各論・犬、猫)
- ISBN:4122040523
- 250ページ
- 原書:” Le chat cet inconnu” c2000
- 登場ニャン物: 多数
- 登場動物: -
目次(抜粋)
- 1章 人間を愛する猫
- 2章 猫の社交性
- 3章 縄張り
- 4章 猫の毛づくろい
- 5章 引っかき傷をつけること
- 6章 猫の行動を人間になぞらえる(様々な擬人化論)
- 7章 草を食べる猫
- 8章 猫の体内時計
- 9章 猫どうしの思いやり
- 10章 人間の病気を癒す猫
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- (中略)
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- 29章 問題行動の治療
- 30章 猫の心身医療
- *あとがき
- *訳者あとがき