ガルシア『さらば、愛しき鉤爪』
酒井昭伸訳。恐竜ハードボイルド・ミステリー小説!?!
奇想天外、抱腹絶倒。
この小説を形容するに、これ以外に言葉は無い。
主人公は、私立探偵。
ロサンジェルス在住。
少し前まではそれなりに羽振りが良かったけれど、相棒の死因を追求しすぎたが為に、正軌道から逸脱してしまい、今はすっかりうらぶれて、借金に追われる毎日。・・・という、実にありきたりな設定である。
が。
「奥様は魔女だったのです」以上に奇想天外なヒミツが、この探偵にはあった!
否、探偵“だけ”じゃない。
なんとも奇想天外な巨大ヒミツが、この人間世界全体にあった!
この探偵、実は人間じゃなかった。魔女でもなかった。
その驚くべき正体とは、・・・
人間の皮をかぶった恐竜、ヴェロキラプトルだったのだ。
これだけでも可笑しいのに。
なんと世界人口の約5%が、実は、人間の皮をかぶった恐竜だときたもんだ!
いや~可笑しい!楽しい!わはは!
そう、恐竜たちは、例の隕石衝突でほとんど絶滅しちゃったけれど、ごく一部はしぶとく生きのこっていたのである。ヴェロキラプトルのほか、ステゴザウルス、カタルノサウルス、トリケラトプス、コンピー(コンプソグナトス)、コエロフィシス、その他もろもろ。もちろん、ティラノサウルス・レックスだってちゃんと生きのこってる!
そして、生き残りの恐竜たちは、なんと全種全員、人間の皮をかぶって、人間のフリをして、人間社会で、人間に混じって、今なお暮らしているのである!
うるさいコトは、この際、言わない。どうしてあの巨大なティラノサウルスが、人間に化けられるのか、どうしてトリケラトプスが、あの広大な襟巻きを隠せるのか、そんなことは、この際、一切無視。ウルトラマンだって、変身したとたんに巨大化するじゃないか。それと同じだ(そうなのか?)。
これほどの数の恐竜たちだから、恐竜には恐竜の社会がある。そしてそれ以上に厳しいルールがある。
そのルールとは、恐竜が生きのこっていることを、決して決して人類に知られてはならない、ということ。
そのために、恐竜たちは滑稽なドタバタを繰り返す。中身が恐竜だ、という以外は、けっこう、まっとうでまじめな(?)ハードボイルドミステリーなのだけど、どれほどハードボイルドだろうが、どれほど巧妙なトリックのミステリーだろうが、中身が、人の皮をかぶった恐竜じゃあ、もう笑うしかない。
なんともバカバカしく、可笑しく、楽しく、それでいて読み応えたっぷりで、恐竜ファンはもちろん、コアな推理小説ファンも満足できる、そりゃー大傑作の一冊であります。私にとって、この小説の唯一の難点は、当代きっての大秀才がトリケラトプスって点だけだったけど・・だって、あの頭でしょ?隠すだけで大変そう(笑)。私が博士をイメージするならやっぱトロオドンとか?一般論としては、草食系より、ラプトルやアロサウルスなど肉食系の方が知能高そうなイメージが(アロサウルスも生きのこっている)。
とはいえ、そもそも恐竜が人間の皮をかぶるだけで人間社会でバレないって時点で、大・大・大・大・大無理があるのだから、些細なことなんか、もぉどーでも良いのです。
とにかく、面白い。
ぜひぜひ、読まれませ。
(2011.2.1.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『さらば、愛しき鉤爪』
- 著:エリック・ガルシア Eric Garcia
- 訳:酒井昭伸(さかい あきのぶ)
- 出版社:ヴィレッジブックス
- 発行:2001年
- NDC:933(英文学)推理小説
- ISBN:9784863326330
- 516ページ
- 原書:”Anonymous Rex” c2000
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:恐竜たち