吉田金彦編『語源辞典 動物編』

吉田金彦編『語源辞典 動物編』

 

う~~ん・・・。

生き物の名前の由来を説明した辞書。
あざらし、あしか、あなぐま、いたち、犬・・・と始まって、全部で690語。
昔の人々が、その動物をどう見ていたか想像でき、遠い古代に想いをよせる楽しさがある。

吉田金彦編『語源辞典 動物編』

吉田金彦編『語源辞典 動物編』

この本は解説によると、

語源であるから、理科的記述よりもことば中心の記述に重点をおくのは当然である。本書の特色として、とくに人間との関わり方において語源を考察した。(中略)いわば動物の文化史面を心掛けつつ、日本人が最初に名付けた動機が言語にどう反映されたかを問うている。
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鳥や獣は鳴き声を語源とするものが多く、は虫類や魚や虫などは「体型・外貌や食用の適不適などからの関心が高」いと言う。また、その動物名が、日本語由来のもの、外来語のままのもの、外来語が和語として翻訳・習合されたもの、に大きくわけられるという。

さて、「猫」はどう記されているかというと・・・
憚り乍ら猫の項目の全文を引用させていただく。

吉田金彦編『語源辞典 動物編』

吉田金彦編『語源辞典 動物編』

ねこ 猫

ネコ科の哺乳動物で、古くから世界各地で鼠の被害を防ぐために飼われた。日本には奈良時代に中国から渡来した。「我、正月一日猫に成りて汝が家に入りし時」(日本霊異記)。『枕草子』に「奥山に猫又という化物ありて人をくらふなる」という噂を記している。
《語源》 ネコ(猫)の語源については、伝統的にネコマの略だとしている。荒井白石はネはネズミ(鼠)、コマはクマ(熊)だとし(東雅)、松岡静雄はネ(寝)コ(小)マ(獣)の意とし(新鮮日本古語辞典)、『大言海』ではネコマは「寝高麗(ねこま)の儀などにて韓国渡来のものか、上略してコマと言ひしが如し、或いは言ふ、寝子(ねこ)の儀、マは助語なりと。或いは如虎(にょこ)の音転など言ふはあらじ」といったぐあいである。猫が鼠を捕る、猫は夜行性で昼寝をよくしているなどの習性から、ネコのネにネズミや寝ルことに結び付けた解釈は『日本国語大辞典』の語源説10項目中もっとも多いが、これらはやはり俗説であろう。
動物の命名に鳴き声が多く、犬と並べて考えてみても、ネコのネは鳴き声からという賀茂百樹や幸田露伴の説が重視される。猫はニャアゴという鳴き声 nyago から出、ネコのコには猪子(いのこ)・鹿子(かのこ)などのコ(子)を接辞したものと考える。語頭のn音はm音にも通じ、ネパール語でネコのことを nyan というが、ペルシャ語では mau、ポルトガル語で miau、英語では mew という。アイヌ語で neko、蒙古語で migui、沖縄古語で miya という。すべて鳴き声の模写である。また幼児語で猫をニャンニャンとかニャアコとかいうのは、犬をワンワンとかワンコとかいうのと同じで、こんな身近な例が、語源を考える基本にあるといえる。漢字「猫」にしても、呉音ミョウ myo はやはり鳴き声に由来していることが最大の傍証といえる。ネコは特異なネコマタの略であるとみられるネコマの略ではなくて、ネコはネコが原形だとすべきである。

この項、私こと猫サイト管理人としては、おっとっと~!?な記述なのである。

まず、「奥山に猫又と・・」は、『枕草子』ではなく『徒然草』の第八十九段に書かれた話である。『枕草子』で有名な猫逸話といえば、『うへに候ふ御猫は』の段に出てくる猫の「命婦のおとど」と犬の「翁まろ」の話。

それから、各国語の「ネコ」を意味する語について。
私はネパール語とペルシャ語は知らないけど、文脈を読む限り、鳴き声ではなくネコのことを、「ポルトガル語で miau、英語では mew 」と書いているように読める。でもこれらは鳴き声の方。「ネコ」を意味する語はそれぞれ gato と cat のはず!
とても単純な、あるいは誤植かもしれないような事だが、辞書辞典の類は間違いはあってはならぬべきものと思うので、あれれ?ですよね。

さらに、猫の幼児語を「ニャアコ」と書いているのも気になる。普通は「ニャンコ」ではないのか?「ニャアコ」なんて私は聞いたことないし、検索しても出てこない。誤植?

「猫」のようなポピュラーな動物に関して、この記載・・・。

その他、散見しただけでも、言語学的にはともかく生物学的には疑問符が付くような記述が多々あり、たとえば「恐竜」の項目でも、

きょうりゅう 恐龍(原文ママ)

中生代に生息した巨大な爬虫類の総称で、頸・尾は長く、前肢は後肢より短く、ふつう後肢のみで歩行する。中生代の地層から400種以上が化石で発見されている。
《語源》(後略)

あの、あんまりな説明ではないかと(大汗)。
100年前に出版された本かと思っちゃうよ・・・

というわけで、この本は、著者には悪いけど、内容的には信用できない気がしてならない。
読み物としては面白いかもしれないけれど。

大変厳しい批評となりましたが、しかし、辞書とか辞典とかは、なによりも正確さを厳格に追及すべき書籍と信じておりますので、批判させていただきました。

(2006.3.15)

吉田金彦編『語源辞典 動物編』

吉田金彦編『語源辞典 動物編』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『語源辞典 動物編』

  • 編者:吉田金彦 (よしだ かねひこ)
  • 出版社:東京堂出版
  • 発行:2001年
  • NDC:480(動物学)
  • ISBN:4490105746
  • 266ページ

 

 


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