動物百科『イリオモテヤマネコの百科』

イリオモテヤマネコは古代獣の風格!
百科、と、図鑑のような外見だが、これは通して読んで面白い本である。
もちろん、興味のあるところだけ拾い読みしても全然構わないのだけど、できれば最初から最後まで通読されることをお勧めする。
西表島にヤマネコが生息していることは、土地の人たちは昔から知っていた。「ヤママヤー」、「ヤマピカリャー」、「メーピスカリャー」などと呼ばれていた。
が、学問的に「発見」されたのは、ついこの間といってよいほど最近である。
1964年、西表島を訪れた早稲田大学探検部の高野凱氏がヤマネコのうわさを聴いて帰る。これが、最初のヤマネコ情報だという。
そして、1965年、当時は毎日新聞社の記者だった戸川幸夫氏が取材に入り、オスの頭骨1個と毛皮2枚を東京に持ち帰った。
この1965年が「イリオモテヤマネコ発見の年」とされている。
とたんに大騒ぎになった。当初の予想「イエネコが野生化したものだろう」をくつがえし、新種のヤマネコ発見、それも、化石レベルの、相当原始的なヤマネコらしい?
西表島は小さな島である。面積わずか290平方kmあまり。これは、ツシマヤマネコが生息する対馬列島682平方kmの半分以下しかない。野生ネコ類が生息する島としては世界で一番小さい。
しかも、世界中で西表島にしか生息していない。
イリオモテヤマネコは非常に特殊なネコである。DNA検査ではベンガルヤマネコに近いと出たそうだが、実際にイリオモテヤマネコに接した人の多くが、亜種レベルの差とは思えない、まったくの別種だと主張している。
この本でも別種として扱われている。著者の今泉忠明氏はイリオモテヤマネコを実際に調査した学者のひとりだ。イリオモテヤマネコとベンガルヤマネコは、さまざまな点で違いがあるという。
模様が違うなど外見だけでない。歯の総数が、ベンガルヤマネコ30本に対しイリオモテヤマネコは28本しかない。頭骨の厚みや脳の重さも違う、等々。
それだけではない。イリオモテヤマネコは、一般的なネコ科に共通してみられる特徴のいくつかを欠いている。
たとえば、舌のザラザラが未発達なこと、爪を引っ込めるのが下手なこと、などなど。
イリオモテヤマネコの特徴を総合的に見ると、すでに絶滅した古代獣メタイルルスにそっくりなのだそうだ。
私は動物学者ではないけれど、個人的希望としては、イリオモテヤマネコは「ベンガルヤマネコの一亜種」なんかでなく「古代獣メタイルルスの子孫」といえる存在ならいいなあと夢見ている。
今、すでに絶滅してしまった動物・・・マンモス、クァッガ等・・・を、現代の遺伝子工学を駆使して復活させようというプロジェクトが世界各地で進められているらしいが、どれほど最新の技術であっても、少なくとも現段階では、“最も近い関係にある現生動物”の存在無しには作れないと聞く。
その大実験を、人間が行う前に西表島が行ってしまったと考えるのは無謀だろうか。
素材としてベンガルヤマネコを使ったのだ。それを、大自然が膨大な月日をかけて、西表島のヤマネコたちを先祖返りさせることに成功したのだ、と。
今、我々の目の前にいるイリオモテヤマネコは、古代猫メタイルルスの一種と見なして良いような存在であってほしいと、私も願わずにいられない気持ちなのである。
そして何より、イリオモテヤマネコが絶滅しないことを願っている。
(2008.7.19)

動物百科『イリオモテヤマネコの百科』

動物百科『イリオモテヤマネコの百科』

イリオモテヤマネコとイエネコの違いは、目の鋭さだけでない。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『イリオモテヤマネコの百科』
動物百科
- 著:今泉忠明(いまいずみ ただあき)
- 出版社:データハウス
- 発行:1994年
- NDC:
489.5(哺乳類・ネコ科) - ISBN:9784887182851 4887182856
- 159ページ
- カラー
- 登場ニャン物:イリオモテヤマネコ、ネコ科
- 登場動物:西表島の野生動物たち
目次(抜粋)
- 第1章 イリオモテヤマネコの発見
- 島の人はヤママヤーと呼んでいた
- 発見のいきさつ/li>
- その他
- 第2章 西表島の自然
- もっとも小さな島に生息するイリオモテヤマネコ
- イリオモテヤマネコは生き残った
- その他
- 第3章 イリオモテヤマネコの夜と昼
- 黒いヤマネコ
- よく光る目
- その他
- 第4章 イリオモテヤマネコの冬
- 恋の季節
- 傷の多いオス
- その他