井上ひさし『ドン松五郎の生活』

井上ひさし『ドン松五郎の生活』

 

夏目漱石の名著『吾輩は猫である』の犬版?。

本はこうはじまる。

なんでも人間属の世界には、夏目漱石という大へんな文豪がいて、彼には『吾輩は猫である』なる表題の、戯文調の小説があるそうだ。戯文仕立てとはいえ、これはなみなみならぬ傑作であるらしい。
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そして、漱石と同業の小説家』に飼われる犬として、・・・もっとも漱石は飼い主の小説家より

1万倍はえらい、とおもう。ほんとうはすくなくとも十万倍はえらい、と考えているが、(中略)恩義を重んじることでは人後、いや犬後に落ちないおれとしては、大いにゆずって1万倍という甘い点をつけたわけだ。
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・・・つまり、あの名作にならって、犬が本を書いたというのが、この本。

主人公、否、主犬公は雑種犬で体もあまり大きくはない。しかし名前だけは「ドン松五郎」と立派だ。生後まもなく、捨てられて川に流されたところを、ある小説家の次女に拾われて晴れて飼い犬となった。飼い犬になれたのは、小説家一家が大の犬好きだったからではなく、一家の主人の小説家が、締め切り間際の原稿が白紙なのにあせって、この子犬をネタに書いちしまえとつい「飼う」と宣言してしまったからだ。

小説家は金持ちではなかったが本持ちではあった。だからドン松五郎は大いに読書して犬とは思えぬ博識となった。天才犬の誕生である。

どのくらい天才かというと、平仮名・片仮名はもちろん漢字もすらすら読め、それどころかその気にさえなれば、あいうえお表を前足で指して人語で人間と意思疎通できるくらいだ。が、あまりやりすぎると後が面倒だから、その辺はセーブして暮らしている。

近所には多くの犬たちがいる。元警察犬で老シェパードのキング、ストリッパーの愛犬プードルのお銀、成金に買われたブルテリアの長太郎、さらに、記憶力犬に電卓犬、拳法ならぬ犬方集団、その他その他(どんな犬たちかは本をお読み下さい!)。

また猫達も登場する。同じ小説家の家に居候を決め込んだ一家である。夫の黒と、妻の白、および、4匹の子猫たちだ。

さて、ドン松五郎は、ある真理に気づいた。

「おれたち犬が仕合わせになるには、まず人間が仕合わせにならなくてはならぬ。」

そこで人間をしあわせにするための世直しを考えはじめるが、その合間にも、思いがけぬ事件が次々と起きて、ドン松五郎は「選ばれし犬」として、大忙し。息もつけぬ大活躍を続ける。猫達と知恵比べしたり、断耳断尾におびえる子犬を助け出したり、犬喰いクラブから追いかけられたり、テレビに出演したり、最後には隊列を組んで大遠征したり、八面六臂の大活躍をする。いや、犬だから、八鼻十二脚の大活躍というべきか。

ドン松五郎はとにかく屁理屈の多い犬で、猫ならともかく、犬が理屈っぽいというのは今ひとつ私のイメージが合わないのだけど、まあ、それはそれ、破天荒な犬の大冒険物語、理屈抜きに楽しんでください。

(2010.6.7.)

井上ひさし『ドン松五郎の生活』

井上ひさし『ドン松五郎の生活』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『ドン松五郎の生活』

  • 著:井上ひさし(いのうえ ひさし)
  • 訳:姓名(ひらがな)
  • 出版社:新潮文庫
  • 発行:1975年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:4101168040 9784101168043
  • 681ページ
  • 登場ニャン物:黒、白、他
  • 登場動物:犬

 


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井上ひさし『ドン松五郎の生活』

9.3

動物度

9.0/10

面白さ

9.5/10

猫好きさんへお勧め度

9.5/10

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