文・早見和真、絵・かのうかりん『かなしきデブ猫ちゃん』
「吾輩も”ネコ”である。名前なんか知らない。」
その、名前も無かった猫が〈捨てネコカフェ〉に来て、そこへ、クマのぬいぐるみをかかえたアンナがやってきた。運命の出会いだった。
ふてくされた子猫は、マルという名前をもらって、しあわせになった。デブ猫に育った。
ところが、ある日。
血統書付きの子猫がやってきた。そのチビメスは、こともあろうに「スリジエ」(フランス語で桜)なんてしゃれた名前までもらって、家族に可愛がられ始めた。とうとう、アンナまで・・・
マルは、夜の街へ、ひとりで踏み出した。
* * * * *
舞台は、愛媛。道後温泉に、石鎚山、しまなみ海道、内子座、等々。愛媛の名所がつぎつぎと出てきます。猫達の名前は夏目漱石『坊ちゃん』ちなみが多いい。そして、とべ動物園の白クマの「ピース」。どこかで聞いた名前だなと検索してみたら、やはり実在のクマさんなんですね。人工哺乳で育てられ、21歳(2021/8/8現在)の今も健在!とべ動物園のサイトで写真や動画が公開されていますので、どうぞご覧ください。
この作品は2018年4月7日~11月17日の毎土曜日、「愛媛新聞」で掲載されたものです。愛媛満載なのも納得。また愛媛と無関係な人でも、夏目漱石ファンなら、必ず楽しめる内容でもあります。「赤シャツ」だの「マドンナ」だのという名前を見るだけでワクワクしちゃうのは私だけでないでしょう。
さて、本は、文章半分、絵半分。文章と、美しいカラー挿絵が、見開きで交互にあらわれるという構成。さらに文章見開きの左下に、見開きの絵がモノクロ版となって小さく掲載されています。漢字にはすべてフリガナ。文庫本ですが、中身はすっかり絵本です。
絵は、やわらかくて味があり、色使いがきれいです。マルの後ろ脚の指球(肉球のうち、指の根元にある小さい球のこと)が3つしか描かれていない絵があるのがちょっと気にならないでもないけど、赤シャツのも白クマピースのも正しく描かれているし、きっと3つしか見えない角度となのだと解釈して(汗)、ほかには文句のつけようがないかわいさ、うつくしさ、もふもふ感。最高です。
巻末には「デブ猫ちゃん冒険マップ」もついています。四国に行きたくなっちゃいますね!
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
目次(抜粋)
【第1部】窓の向こう
【第2部】荒野へ
【第3部】空よりもまだ青く
著者について
早見和真(はやみ かずまさ)
2008年『ひゃくはち』で小説かデビュー。同作は映画化、コミック化され一躍ベストセラーとなる。15年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門、19年『ザ・ロイヤルファミリー』でJRA賞馬事文化賞、第33界山本周五郎賞受賞。著書に『東京ドーン』『ぼくたちの家族』『6(シックス)』『店長がバカすぎて』、初の絵本『かなしきデブ猫ちゃん』など。
かのう かりん
『いろんなおめん』で第6回フジテレビBe絵本大賞入賞。著書に『おやすみ おやすみ みんな おやすみ』など。 (著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『かなしきデブ猫ちゃん』
- 文:早見和真(はやみ かずまさ)
- 絵:かのう かりん
- 出版社:株式会社集英社 集英社文庫
- 発行:2021年
- NDC:913.6(日本文学)小説、児童書、絵本
- ISBN:9784087442199
- 153ページ
- カラー
- 登場ニャン物:マル、スリジエ、キヨ、赤シャツ、野だいこ、山嵐、マドンナ、ヘミングウェイ、ほか
- 登場動物:シロクマ、ほか