久能靖『川上犬物語』

久能靖『川上犬物語』

 

ニホンオオカミの血をひくといわれるマタギ犬、川上犬。

私(管理人)が、川上犬に突然興味を持ったのは理由がある。

近所の人が犬を散歩させていた。
その子犬がただ者でないことは、遠目でもわかった。

まだほんの幼犬だったけれど、すでに言い知れぬ風格があった。
柴犬?にしてはちょい大きい?四国犬か、紀州犬か、もう少し北方系な気もするが、でもなんとなく北海道犬って感じじゃないし?
ちらっと頭をかすめたのは高安犬。でもあの犬種はすでに滅んでいない。

何犬でも良い。これはすばらしい和犬だ。それだけは間違いない!

犬に無頓着な私でさえ、たちまち魅了された。
それほどに見事な犬だった。

犬種を聞いて驚いた。
川上犬だという。

川上犬は、何年か前にテレビで1回見ただけである。
そのときは、そんな日本犬がまだ残っていたのかと感心した。
1回見たきりの、それもテレビで見ただけの犬たちが忘れられなかった。

長野県南佐久郡川上村。
険峻な山々に囲まれた、自然の厳しい地域だ。村の中心部で標高が1200~1300メートルもあり、厳冬期には気温は零下20度以下にも下がる。

そこが川上犬の故郷である。カモシカ猟などに使うマタギ犬(猟犬)として飼われていた。

かつての川上村は貧しく、周囲の山々は険しく、昭和にはいってからも交通はすこぶる不便だった。
しかしそのお蔭で、日本犬の純潔が保たれた。

戦時中は、軍が犬たちの撲殺令を発し、川上犬も絶滅の危機に立たされた。
しかし、この優秀な血統を惜み、密かに守った人がいた。

その後、川上村は、高原野菜の一大生産地として繁栄するようになる。川上犬は県の天然記念物に指定されたものの、小梅線が開通して品濃川上駅ができ、林業が隆盛になった結果、カモシカが減り、猟師たちは林業に転職した。洋犬もはいってきた。生活習慣がどんどん変わった。

川上犬はふたたび絶滅の危機に立たされた。

熱心な保護者だった藤原武重氏が亡くなり、川上犬保存会が事実上消滅。川上村内に残った川上犬はわずか3頭。それも、繁殖には遅すぎる老犬ばかり。

もはやこれまでかと思われた時、また奇跡が起きた。

藤原武重氏から純潔川上犬を譲られた隣村の人が、八ヶ岳山中で、ひっそりと繁殖させていたのだ。
有志がその犬たちを買い戻し、再び保存会の活動がはじまった。

今、川上犬は全国で300頭を超える。うち、川上村内で飼育され、天然記念物に指定されている純潔川上犬は38頭(2011年10月現在)。元総理大臣の海部俊樹氏も川上犬の大ファンで、首相公邸で川上犬を飼っていたこともあるという。

久能靖『川上犬物語』

久能靖『川上犬物語』

とはいえ、まだわずか300頭。その中の1頭が、他ならぬ我が家の近所にもらわれてこようとは、私にとっては望外な幸運に他ならない。見れば見るほど良い犬だ。これぞ和犬。私はチャラチャラした人造犬種には何の魅力も感じない。やっぱり犬はこうでなきゃ。ニホンオオカミの血が混ざっているという言い伝えにもロマンを感じる。それがあながち嘘とは思えぬ風貌を、子犬でありながらすでに備えている。

「川上犬」を検索して『川上犬物語』という本の存在を知った時はうれしかった。間髪入れずに購入ボタンをクリック。手元に届くや、あっという間に読み終えた。

『川上犬物語』の著者は、元テレビのニュースアナウンサー。その後、報道部記者に転じ、今はフリーのキャスターだそうだ。

そのような履歴の著者だから、川上犬の歴史と魅力を、テレビのドキュメンタリーのように色彩豊かに語って読者を飽きさせない。犬好きさんはもちろん、犬嫌いさんにもお勧めしたい1冊だ。

やはり日本人には和犬、それも、その地域で育った土着犬が一番ふさわしいと思う私である。

(2011.10.10.)

久能靖『川上犬物語』

久能靖『川上犬物語』

久能靖『川上犬物語』

久能靖『川上犬物語』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『川上犬物語』

  • 著:久能靖(くのう やすし)
  • 出版社:河出書房新社
  • 発行:2007年
  • NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
  • ISBN:9784309018225
  • 275ページ
  • モノクロ
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:川上犬

 

目次(抜粋)

はじめに
第一章 干支の顔
第二章 川上犬のふるさと
第三章 動物達の受難
第四章 奇跡の復活
第五章 川上犬と暮らして
第六章 学校犬

 

著者について

久能靖(くのう やすし)

1936年生まれ。東京大学卒業。日本テレビのアナウンサーとしてニュース部門を担当。東大闘争、成田闘争、浅間山荘事件、日中国交回復などを実況中継。1972年、報道部記者に転じ、警視庁、労働省、自民党、国会などを担当。現在、フリーのキャスターとして活躍している。著書に『浅間山荘事件の真実』『「よど号」事件 122時間の真実』『高円宮殿下』(いずれも河出書房新社刊)。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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