ブルース・フォーグル『キャッツ・マインド』
副題『猫の心と体の神秘を探る』。
世界的に有名な獣医であるブルース・フォーグルの書。
全体は大きく2部に分かれている。
第一部「猫の精神構造、その解剖学的および生理学的検証」では、文字通り、猫の脳やホルモン、五感、体内リズムなどを、解剖学的・生理学的に詳述している。
私のように解剖学とは無縁な者には少々退屈な部分だ。 が、医学者ならではの非常に科学的な論述が、小気味よくもある。
第1部は122pまで。
第2部の「猫の精神構造、その心理学的検証」の方が、我々素人には面白いだろう。
特に「早期学習ー親猫、兄弟猫、そして人間の影響」では考えさせられてしまう。
猫の性格は、我々が普通考えているよりもずっと幼いうちに決定してしまうらしい。
社会化期、という言葉がでてくるが、その意味は、 「若い動物が同種の他の仲間達・・・家畜の場合には、・・・他の家畜や人間という異なる種との関係形成の時期」で、「感受性が極めて高くなる時期」のことである。
猫の場合、その社会化期は生後約2週目から始まり、生後約7週目で終わってしまうというのだ。
この時期に毎日長い時間(実験では40分)人とふれあった子猫のほうが、まったく触れあわない子猫や短時間(実験では15分)しか触れあわなかった子猫より、人との絆が深くなるという。
もしそれが事実なら、・・・多分事実なのだろうが、・・・私が今まで経験的にやってきた事が正しかったと言えそうだ。
人になれていない野良母猫の子猫を保護するとき、私は生後10日~2週間で親猫から離して保護し、その後人工ほ乳で育てるという方法をとってきた。
多くの人は、親猫から幼い子猫を離すのはかわいそうだと言い、完全に離乳するまで親猫に子猫を育てさせ、それから保護しようとする。
しかし私は、生後2ヶ月以上まで人と触れあわずに育ってしまった野良猫の子猫より、生後2週間で保護し人工ほ乳で育てた子猫の方が、飼い猫としては扱いやすい子に育つということを、なんとなく感じていた。
子猫時代の2ヶ月を幸せに過ごした代償にその後の長い猫生をもしかして不幸にしてしまうよりは、かわいそうなようでも生後2週間で保護し後の長い猫生を幸せに過ごせるようにしてあげた方が良い、そう考えて、早期保護を行っていたのである。
人工保育の方が全員に必要な栄養が行き渡るなど健康上の理由もあるが。
もし生後7週目で社会化期が終わってしまうのであれば、生後2ヶ月超の野良猫子猫が扱いにくくなるのは当然だったわけだ。
もっとも、扱いにくいとは決して「馴れない」という意味ではない。大人猫でさえ、イエネコ種は人と過ごしていればよく馴れる。こんなに信頼してもらえるなんてと、感動するくらい良く馴れる。
ただ微妙に違うと感じたのが、病気や怪我の時だ。
ごく幼い時から人とベタベタ暮らした猫は、体調が悪いと、しばしば人に訴えに来る。人に助けて貰うのが当然だと思っているのだろう。うちのトロなどは、「足が濡れた~」「ウンコ踏んで気持ち悪い~」なんて事でも、いちいち訴えてくれるから、非常にわかりやすい。
それに対し、ある程度年齢がいってから保護して馴れた子は、ネコとしての本能に従い、体調が悪くてもそれを極力隠すように思える。本来のネコの姿ではある。しかし病気の早期発見という観点からは、隠して欲しくない。うちのネコで言えば、おつうは普段はベタベタの甘えんぼうのくせに、口から血を流していても黙っている。トロならぎゃあぎゃあ言いつけにくるところだ。
この本は、全体的に確かに医者が書いた本だと思う。 333pにみっちり知識が詰め込んであって読みでがある。 猫についてさらに深い知識を求めている人にお勧めしたい。
(2002.10.24)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『キャッツ・マインド』
猫の心と体の神秘を探る
- 著:ブルース・フォーグル Bruce Fogle
- 監修:増井光子(ますい みつこ)
- 訳:山崎恵子
- 出版社:八坂書房
- 発行:1996年
- NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
- ISBN:4896946774 9784896946772
- 335+10ページ
- カラー、モノクロ、口絵、挿絵、イラスト(カット)
- 原書:”THe Cat’s Mind” c1991
- 登場ニャン物:多数
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- 日本語案監修にあたって(増井光子)
- 日本の読者の皆様へ
- 謝辞
- はじめに
- 第1部 猫の精神構造、その解剖学的および生理学的検証
- 第1章 精神構造の遺伝学
- 第2章 脳、ホルモン、そしてバイオフィードバック
- ほか
- 第2部猫の精神構造、その心理学的検証
- 第5章 早期学習―親猫、兄弟猫、そして人間の影響
- 第6章 その後の学習―地位と縄張り
- ほか
- 参考文献
- 訳者あとがき
- 索引