坂本千明『退屈をあげる』
甘噛みを知らない猫は・・・。
「あたし」は、ひどくお腹を空かせて、冬の冷たい雨の日に、じっとうずくまっていた。
死を覚悟して。
そのとき、ある人が、「あたし」を抱き上げてくれた。
運が良かったのか悪かったのかは
今でもわからない
ともかく家猫になったあたしには
いくつかの特徴があった
それらの特徴のなかに、「甘噛みを知らない」というのもある。
それから、「ねこじゃらしに知らんぷり」というのも。
これらの特徴は、野良あがりの子には珍しくない。
たった独りで必死に生きてきた猫は、甘噛みを知らない。
だから猫ボランティアの手は傷だらけになってしまう。
そして、「ねこじゃらしに知らんぷり」。
野良猫には、無邪気に遊ぶ余裕なんかないからだ。
ほんの子猫の頃から。
命をかけて獲物を狙うか、そうでないときは、命を守るために、隠れていなければならない、それが野良の子猫。
うちの故おつうも、おもちゃにじゃれるようになったのは、うちの子になって1年以上過ぎてからだった。
野良猫の生活とくらべ、飼い猫の生活は単調だ。
ごはんたべて
ねて
うんちしてくり返し
そこでの毎日はとても退屈だったけれど
こわい外の世界に戻るのはもうまっぴらだった
うちのおつうも、二度と外には出たがらなかった。
おつうは、ガリガリに痩せ、くる病気味で、寄生虫まみれ、生きているのが不思議なくらいな状態で保護された猫だ。
外の生活がよほど辛かったのだろう、戸や窓が開いていると後じさりしてしまうような飼い猫となった。
この本の猫もそうなのかと思うと、あわれだ。
保護されて良かったと、しみじみと思う。
やがて、この猫も老いてきて、階段を駆け上がったりできなくなる。
そして、家には、「黒くて小さなやつら」がやってくる。
・・・あたしの退屈をまるごとやつらにあげる
泣きなさんな
泣きたいのはあたしなのだから
さいごに、あたしは地上を見ろして言う。
ごはんたべて
ねて
うんちしてくり返し
この愛しい退屈は
空のうえでもきっと
ずっとつづくのだと思う
このお話につづけて、「幻の猫 あとがきにかえて」という文章があります。
著者と、モデルとなった猫との出会いを描いた、エッセイのようなものです。
この「幻の猫」がまた良いんですよね。
ご自分でも瀕死の猫を保護した経験のある方なら、こちらの方が泣けるのではないかと思います。
著者は、猫を育てているつもりで、いつの間にか私が猫に育てられていたのだと書いている。
そして、猫を全力でお世話する。
私の願いはただひとつ、ねことこの先もずっと暮らせることだった。
でも、絵本の中で、猫は天命を全うし、さいごに死んでしまう。
あとがきで、著者は問い続けている。
猫が幸せだったかどうか。
あのとき、家の中にいれて良かったのか。
いくら考えてもわからない、と。
・・・もちろん、その猫は幸せでしたよ。
幸せでなかったはずがないでしょう、こんなに愛されて。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『退屈をあげる』
- 著:坂本千明(さかもと ちあき)
- 出版社:青土社
- 発行:2017年
- NDC:726(マンガ、絵本)
- ISBN:9784791770151
- モノクロ
- 登場ニャン物:無名(あたし、黒くて小さなやつら)
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- 退屈をあげる
- 幻の猫 あとがきにかえて
「2009年より神版画の手法」を「2009年より紙版画の手法」に直してあげてください。少しわかりづらい誤記のようですので、あえておたより。
うわ、誤変換、全然気づいていませんでした。
ご指摘感謝します!
訂正しました。ありがとうございました。
(私の内心が誤変換に出たのかも?神業な紙版画 =^_^=)