曾野綾子『ボクは猫よ』

曾野綾子『ボクは猫よ』

 

猫と風刺と滑稽味と。

「ネコ」という名前の猫と、作家・阿野文子・裏見成平夫婦の物語。阿野文子は勿論、曾野綾子さん(アノ←ソノ)、裏見成平はご主人の三浦朱門さん(ウラミ←ミウラ)だろう。

最初は漱石の「吾輩は猫である」ばりの、滑稽調を狙っていたようが、どうも苦しい。さしもの才女・曾野さんでも、不得手なものがあるかとも思えたが、・・・

神父さんとの対談の場面が出てきてから、俄然文章が光り出した。やはり曾野さんにはこういう内容が似合う。話の中身はどんどん濃くなっていく。ものすごく重い事を、宗教をねっとりとからませて語っているのだから、非常に重苦しい小説になっても不思議ではないところである。

ところが、猫の視点から見たり聞いたりさせているので、いかに深刻な内容でも、全然消化不良は起こさない。それどころか、人の世から一歩離れて、猫の目から見てみたら、重い話がしばしば滑稽にさえ見えてしまうのだ。この手法は流石としかいいようがない。さらりと読み下して、後からウーンと考え込んでしまう。風刺のパンチがバシバシ効いて、非常に面白い。

曾野さんはカトリックの信者だ。その為か、ものの見方・考え方が普通の日本人とはちょっと違っているように思う。いつでも、また、どんな場合でも、非常にしっかりした芯が一本通っているという印象がある。それが大変に心地よいし、信頼できる作家だと思う。例のペルーの元大統領を日本でかくまった時にはびっくりしたが、しかし、ご自分の信念の為には国家さえ平気で相手にまわしてしまう強さは曾野さんならではとも思った。私が心から尊敬する女性の一人である。

なお、続編とも言うべき『飼い猫ボタ子の生活と意見』もどうぞ。

(2002.8.22)

曾野綾子『ボクは猫よ』

曾野綾子『ボクは猫よ』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『ボクは猫よ』

  • 著:曾野綾子 (その あやこ)
  • 出版社:文芸春秋・文春文庫
  • 発行:1982年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:4167133164 9784167133160
  • 374ページ
  • 登場ニャン物:ネコ、アカ(バカ)、チンケ、ゲバコ、ダミ、おナナ、おハチ、ロクちゃん、おトラ
  • 登場動物:

 


ショッピングカート

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA