柳田国男『日本の昔話』

柳田国男『日本の昔話』

 

猫の話は残念ながら少ないが。

秋の夜長に囲炉裏端で、代々お婆さんが孫達に話して聞かせてきたような、珠玉の昔話たち。
しかし日本の家庭や生活習慣が変化するにつれ、昔話は、語り継がれるものから、本で読むものに変化しつつある・・・

著者の柳田国男氏は「はしがき」でこう書いている。

私は日本の昔話を、この小さな一冊の本に集める為に、少しでも変わった珍しいものを探そうとはしませんでした。それよりも、なるたけ全国の多くの児童が、聴いて知っているだろうと思うものを拾いました。(中略)幾つかある話の中では、殊に一番昔話らしいもの、即ち古い形のちっとでも多く残っているものを取るように致しました。(後略)

どの話も簡潔で簡単である。骨格だけが書かれてある。
きっと、いにしえの語り手たちは、おのおの自由な想像力で豊かに話を膨らませて語ったことだろう。

さて、猫が活躍するのは1編だけ。「猿と猫と鼠」という話である。

昔々あるところに、爺と婆がいた。婆は木綿を織り、爺が方々の町へ売りに行く。ある日爺は、大きな雌猿を猟師の鉄砲から救おうとして、自分が撃たれてしまう。猿たちは爺を介抱してご馳走し、「猿の一文銭」という宝物をくれる。爺は家に持ち帰り祭って置くと、たちまち金持ちになった。それを妬んだ隣人に宝物を盗まれる。
驚いた爺と婆、宝物を探したが見つからない。で、

そこで家に飼っている玉という猫を喚んで、玉よ、猿の一文銭を三日の内に探し出してこい。
(p.28)

猫は鼠を捕まえて協力をお願い、いや、強要する。
鼠が悪人の箪笥の中にあった一文銭を見つけて玉に渡し、玉は爺に渡して、皆が皆いつ迄も繁盛して、めでたしめでたし。

・・・これは因幡(いなば)の国の民話だそうだ。

私が面白いと思ったのは、猫の名前が「玉」であること。
随分昔から猫の名は「たま」と決まっていたらしい。

ところでこの話、爺を助けるのは猿や猫や鼠など動物たち。
人間はと言うと、猿と誤って爺を撃ったり、宝物を盗んだり。

今回、再度この本を読んでみて、日本人と動物たちの関わり方というか、日本人が動物たちをどう見ていたかについて、あらためて考えてしまった。

動物たちは、素直で義理堅く、一生懸命恩返しをするけなげな動物が多い。
もちろん、中には人を騙したりおどしたりする悪い動物もいる。
が、全体から見れば、悪いのは少数派で、動物同士は騙したり傷つけ合ったりしても、動物が人間に害をなす話は少ない。
そして、動物を助けた人には、かならず良い事がおこる。

動物と人間が簡単に婚姻関係を結ぶのもおもしろい。
動物と人間の間の垣根が、今の世では考えられないほど低いのだ。
ほとんど同次元なのだ。

こんな自然な異種間交流を、私もしてみたいなと思うのである。
(だからといって狐や山鳥と結婚したいと言う意味ではないが・・・笑)。

そして多分、これこそが日本人の本来の姿なんじゃないかと思う。
西洋に「動物愛護精神」を学ばずとも、日本人は、もっと自然におおらかに、動物たちと接することができる民族だったはずだ。
その豊かな感性を思い出すべき時がきているのではないだろうか。

(2008.7.1.)

柳田国男『日本の昔話』

柳田国男『日本の昔話』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『日本の昔話』

  • 著:柳田国男(やなぎだ くにお)
  • 出版社:新潮社 新潮文庫
  • 発行:1983年
  • NDC:388.1(伝説、民話)
  • ISBN:4101047030 9784101047034
  • 188ページ
  • 登場ニャン物:玉
  • 登場動物:犬、サル、ネズミ、タヌキ、キツネ、他

 


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4.2

猫度

1.5/10

面白さ

8.0/10

猫好きさんへお勧め度

3.0/10

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