書評:アダムソン『エルザの子供たち』

アダムソン『エルザの子供たち』

 

野生動物、対、人間社会の闘争に。

エルザの3頭の子供達は、セレンゲチー国立公園に移動された。アダムソン夫妻は当然、子供達が完全に独り立ちするまで、今まで通りべったり世話をするつもりでいた。そして実際に、国立公園内にキャンプを張って今まで通り餌付けを続ける。

が、公園側は、期日を言い渡し、以後は立ち去るようにと命令する。夫妻はショックを受ける。まだ子供達は大人になりきっていない、無理だ無茶だと、何回も公園側に掛け合うが、どうしても受け入れてくれない。

ジェスパは、家畜襲撃事件の際、腰に矢傷を受けていた。小さな矢尻が皮膚に浅く突き刺さったまま取れずにいたのである。アダムソン夫妻は、その傷の手術だけでもしないといけないと主張する。なぜなら、「もしその傷が将来化膿するなどして、手負いのライオンとなってしまったら危険だから」という。手負いのライオンはしばしば人を襲う、人を襲ったライオンは殺される、ジェスパが殺されるのはイヤだというわけだ。

それならなぜ檻に入れて移動している最中に手術してしまわなかったのか。アダムソン夫人の説明はこうだ。放っておいても抜け落ちると獣医が判断したから、それに、狭い檻にいれて1000キロにも渡る移動は大変なストレスがかかる、さらに麻酔を使って手術するなんて負担はかけるわけにはいかなかった、と。
私は、そんなことより、新しい土地に放す前に健全な体にしておく方がもっと大事なのではないかと思うのだが、夫人の論理は異なるらしい。

さらに、そのジェスパのために、禁止区域でカモシカを撃ち殺して餌として与えたりしたからますます関係はこじれていく。 公園側は、なんといっても、期限には退去しろとゆずらない。野生動物のことは大自然の意志に任せろというのだ。

それなら、と、夫人はある抜け道を思いつく。一般観光客として入園して、毎日会いに行けばよい。公園側も、一般観光客の来園は拒否できない。かくして、夫人はその後何ヶ月も「一般観光客として」公園内に寝泊まりしながら、子供達を探し回る。

ところが、夫妻の意に反して、その後子供達には2度と会えなかった。

『エルザの子供達』の後半100ページ余は、アダムソン夫妻が、子供達の姿を求めてひたすら走りまわった記録である。途中でツバメがテントの中に巣を作る描写などもはいっているが、話題の中心はずっとジェスパの心配であり、ジェスパにあえないもどかしさである。本の主人公がライオン達から完全にアダムソン夫人自身にうつってしまっている。
エルザシリーズがこれほど有名でありながら、動物学者の間での評価があまり高くないのは、この辺に理由があるのだろう。もしアダムソン夫人がもっと突き放した冷静な目で、エルザ一家を客観的に見守ることが出来たら、この話は他に例を見ない優れたライオン研究書として今でも名をとどろかせていたにちがいない。
しかし、これでは分類は「動物文学」。
私でさえ、これを「ライオン観察記録」とは呼ぶ気になれない。あまりに感情的すぎるのだ。

最初の『野生のエルザ』には、まだ哲学的な論述もあり、動物保護や自然の大切さを訴える記述もあり、大変良い本だと思った。
ところが、エルザが死に、エルザほど人慣れしていない子供達が中心になるにつれ、夫人の筆に余裕がどんどん無くなってくる。「私はこんなに愛しているのに」どうして何ひとつうまくいかないの、という叫びがずっと透けてくる。過保護ママの話を聞いているようだ。子供は独立したがっているのに、ママが全然子離れ出来ず、結局は子供をダメにしていく。

昔読んだエルザシリーズ。20年ぶり以上?に読み返して、ひとつ、大失敗があった。それは日本語で読みかえしてしまったと言うこと。英語版を購入して原文で読めば良かった。そうすれば「土人」という言葉にひっかかることは無かったのに。

もうひとつ、「私の子供達」「我が子」という言葉がずっと使われているが、それも気になった。まさか教科書的直訳 “my children” ではないだろうと思うけれど。
この「私の子供達」「我が子」という表現がすべて、「子ライオン達」であったならば、もう少し客観的な印象を受けることが出来たかも知れないと思う反面、アダムソン夫人の熱愛の対象が「子供」ではなく「ライオン」だと強調されるわけで、ますます異常に見えてしまうかも知れないとも思う。翻訳は難しい。

(2004.11.30)

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【エルザシリーズ】

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アダムソン『エルザの子供たち』

アダムソン『エルザの子供たち』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『エルザの子供たち』

  • 著:ジョイ・アダムソン Joy Adamson
  • 訳:藤原英司
  • 出版社:文春文庫
  • 発行:1974年
  • NDC:489.53(哺乳類・ネコ科)
  • ISBN:9784167109042
  • 269ページ
  • 原書:” Forever Free ” C1962
  • 登場ニャン物:ジェスパ、ゴパ、リトル・エルザ(ちび)(全員ライオン)
  • 登場動物:多種多様

 

目次(抜粋)

  • 新しい土地
  • 子供たちの谷間
  • 草原の動物たち
  • 子供たちとの再会
  • セレンゲチーの雨季
  • ツバメの親子
  • 神に託して
  • 解説

 

著者について

ジョイ・アダムソン Joy Adamson

オーストリア生まれ。狩猟監視官の妻としてアフリカに暗し、エルザ・シリーズのほか、チーターの飼育記録「いとしのピッパ」「さよなら!ピッパ」自伝「エルザわが愛」を発表、1980年1月アフリカで死去した。69歳だった。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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アダムソン『エルザの子供たち』

アダムソン『エルザの子供たち』
7.5

動物度

8.0 /10

面白さ

8.0 /10

猫好きさんへお勧め度

6.5 /10

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