赤川次郎『三毛猫ホームズの狂死曲(ラプソディー)』
有名なバイオリン・コンクールで連続殺人事件が。
クラシック音楽家を志すバイオリニストの卵たち。彼らの一生の運命を決める、重大なコンクール。
コンクールの決勝に残った7名は、人里離れた別荘で、よく言えば課題曲の練習に集中するための合宿、悪く言えば軟禁状態に隔離されて、1週間を過ごすことになる。
このコンクールで賞を取れるかどうかで、その後の生活が一変してしまう。彼らが必死なのは当然だった。
当人たち以上に必死になっている人たちがいた。親たちだ。文字通り、命がけ。我が子を優勝させるためには、殺人だって犯しかねない。あまりに必死すぎて、滑稽にしか見えないほど。
そして、・・・
本当に殺人がおこってしまった!
さらに、脅迫、暴行、自殺未遂に、放火。地震まで加わって、事件のてんこ盛り。
三毛猫ホームズと片山刑事は、バイオリニストたちを警護するため、別荘に一緒に泊まり込む。
最後は、例によって、ホームズの冴えわたった頭脳が、事件解決のヒントをつぎつぎと指摘して、無事に解決する。
女性恐怖症で自称「もてない男」の片山刑事は、今回もしっかりもてているし。
・・・・・
以下、ネタバレ含みます。
【ネタバレ注意】
さらっと読めば、ミステリーとしては、とても面白いし、三毛猫ホームズシリーズの中でも傑作のひとつだと思うのですけれどね・・・
どうも気になったことをひとつ書いちゃって良いですか?
実に些細な事なんですけれど。
コンクールの課題曲のことです。
コンクールのためにわざわざ新曲を作り、公平を期すため、作曲家名すら事前公表はされない、という設定は良しとします。
でも、楽譜は、7名の決勝出場者たち用に、7部だけ作成され、他の誰も決して見ることはできない、というのが、どうも引っかかって。
だってこの曲、コンチェルト(協奏曲)なんですよ。
コンチェルトである以上は、ソロリスト以外に、指揮者もいれば、オーケストラもいるんです。
そしてこれは、とても重要なコンクール。町内音楽イベントじゃないんです。
7名のソロリスト達以外も練習したいんじゃないですか?
オーケストラの団員は、それぞれのパートの譜面があれば、まあなんとかなるでしょう(本を読む限り、そんな譜面も無さそうですが)。
でも、指揮者まで、コンクール本番まで、曲の全体像を知らないの?初見で指揮・演奏するの?
それでは、不公平すぎませんか?
もし指揮者もオーケストラも初見で演奏するのであれば、1回目の演奏と最後7回目の演奏では、当然ながら、出来が違ってくるでしょう。
ソロリストの腕云々の前に、オーケストラの出来が耳に付いちゃって、ソロリストだって気になるだろうし、審査員だって聴衆だって公平に聴くことはできないでしょう。
何故コンチェルトなんて設定にしたんだろうなあ、バイオリンだけの曲にしておけば不自然でなかったのに、と、・・・
我ながら、細かいなあと思いつつ、気になって、気になって。
にゃはは。
著者さま、うるさい読者ですみません。
(1987年10月3日)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『三毛猫ホームズの狂死曲(ラプソディー)』
- 著:赤川次郎(あかがわ じろう)
- 出版社:角川文庫
- 発行:昭和60年(1985年)
- NDC:913.6(日本文学)推理小説
- ISBN:4041497841
- 369ページ
- 登場ニャン物:ホームズ
- 登場動物: フレデリック(むく犬)